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第35話
×××
……熱い……
あのまま夜通し眠ってしまったからなのだろうか。
体が鉛の様に重く、息が苦しい。
ゴホッゴホッ……
何かが詰まったように、呼吸の度にゼロゼロと胸から音がする。
ベッドに横になったまま体を折り曲げ、何度か咳き込む。
視界がぼんやりとし、熱くて、耳が塞がった様にぼーっとする。
なのにゾクゾクと寒気で鳥肌が立ち、薄手の上掛けを引いて頭から被る。
「……これ、食えるか?」
ベッドに腰を掛けたハイジが、心配そうに声をかける。
そしてぺらっと上掛けを捲り、僕の顔を上から覗き込む。
その表情は、僕の知ってるハイジ……
「………」
腫れ物にでも触る様な視線を向ける、瞳。
無言で目を逸らせば、少しだけ落ち着かない様子を見せるハイジ。
「……その、悪ぃかった」
「………」
「これからは、大事にすっから」
手にしたインスタントのカップ雑炊を、プラスチックのスプーンで掻き混ぜる。
湯気が立ち、特有の食欲を刺激する匂いが辺りに漂う。
「……さくら」
「………」
「兎に角、これ食ってくれよ」
サイドテーブルには、市販の風邪薬と500mlのミネラルウォーター。
そして、栄養ドリンク。
明け方……
ハイジがここに帰ると、咳き込む僕に気付いて直ぐに駆け寄った。
それから手錠を外し、ティッシュで簡単に性行為の事後処理をしてくれ、僕に下着を履かせてくれた。
それから部屋を飛び出し、暫くしてコンビニの袋をぶら下げて戻ってきたのだ。
「………」
「んな恨めしそうな顔すんなって」
諦めたのか、カップ雑炊をサイドテーブルに置く。
そして手を伸ばし、僕の横髪にそっと触れる。
その指は何処か迷いがあり、不安げに震えた。
「………」
それを払うこともせず、僕は無言のまま静かに触られていた。
「……もう、しねぇから」
その指が髪に絡み、不器用に梳く。
触れた耳……その耳殻をそっと摘み、縋るような声を出す。
……ハイジ……
胸の奥がぎゅっと締め付けられ、苦しくなる。
「………ずっと、待ってたんだよ……これでも」
視線を逸らしたまま、小さく唇を動かす
喉がザラザラとし、出した声が何だか変……
「……ゴホッ、ゲホッ」
背中を丸め、激しく咳き込む。
と、耳に触れていたハイジの手が離れ、僕の背中に当てられる。
「……大丈夫かよ」
上掛けの上から、ハイジが背中を摩った。
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