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第36話

「……ごめん、ハイジ」 ガラガラとした声。 自分の声じゃないみたい…… 「謝んなって」 そう言われたけれど、胸を抑えながら頭を小さく横に振る。 「……ごめん……、ゴホゴホッ」 「もう喋ンな」 一度咳き込むと、中々止まってはくれない。 背中を摩られる度に、ゾクゾクと寒気が襲う。 「……待っててくれてたんだな」 ボソリ、と呟くハイジ。 その声色は何処か嬉しさを孕み、口元を緩ませる。 それは瞳も同じで、何処か潤み澄んだ優しい色をしていた。 「………」 ……誤解……させた…… 続きを言う前に、ハイジの中での僕が出来上がってしまった。 ……違う。 そう言ったら、またハイジは豹変してしまうだろう…… そしたら今度は、確実に殺されるかもしれない。 「……うん」 待っていたのは、本当…… レンタルビデオショップ店員のハルオの所に居候しながら、いつかハイジが迎えに来てくれると…… ハイジは捕まった、って太一達に聞かされてからも、……頼りない希望だったけど……待ってた。 それは同時に。 アゲハへの憎しみも、竜一への淡い想いも一緒に……だけど…… 「さくら」 咳が止まった僕の目頭から下瞼を、ハイジが人差し指で拭う。 そしてそのまま僕の横髪に、今度は優しく触れて指を絡ませる。 「オレは、暴力団との繋がりはあるけど……暴力団組員じゃねーから」 「………」 ……え…… 驚いた。 あの部屋に龍と一緒に入ってきたハイジは、何処からどう見てもそっちの世界の人に見えた。 それに…… 殺す事に何の躊躇もない……あの鋭くて氷の様に冷たい瞳。 「……ただ、龍さん………って、リュウと同じ名前でややこしいな……… オレと一緒にいたあの人、龍成さんっつーんだけど」 「………」 「オレその人に、返せねぇ恩義があっから」 丁寧に梳く指先は、もう震えてなどいない。 潤む瞳のままハイジを見上げ、その腕にそっと手を伸ばす。 「……恩義?」 小さく呟けば、直ぐにゴホゴホと咳き込んでしまう。 もう、咳のし過ぎで喉が痛い…… 「無理して喋んなって!」 直ぐにハイジが背中を摩ってくれた。 「……オレが施設出身なの、知ってんだろ?」 そうしながら、ハイジはぽつりと話し出した。
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