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第40話

銀色のフィルムからカプセルをひとつ取り出す。 「……ほら」 「………」 片手を広げて受け取る。 コロンと転がるそれを、手を窄めて掌の中心に寄せた。 「……オレが小四の時…… 親からの虐待が原因で引き取られた女が入所したんだよ」 自己紹介の際…… 長い髪で俯いた顔を隠し、無言のまま隣に立つ職員の袖口を、怯える様にずっと掴んでいた。 中学生位だろうか……その髪の隙間から見えた顔は、ハイジが今まで見た事が無い程端整な顔立ちをしていた。 その子が施設に来てから、それまでの殺伐とした空気は一変した。 初めて新しい服が支給され、食事も毎日弁当が与えられた。 風呂にも毎日入れ、職員からの暴力や独房に閉じ込められる事も無くなった。 その職員は、掌を返したかの様に優しく接してくる。 しかしその笑顔が、返ってハイジの不安を駆り立てた。 「解放された、って単純に喜んでた奴もいたけどな……」 その女子は何の疑いもなく、職員にだけ心を許し、会話を交わし笑顔を向ける…… その姿に、ハイジは無性に腹が立っていた。 そんなある日の夜…… 皆が寝静まった頃に目を覚ましたハイジは、一人静かに廊下に出た。 その時、職員に手を引かれ長い髪を靡かせながら、あの女子が職員の個室に入っていく姿を目撃してしまった。 ……ぃや…… 止め……、て……っ、 ドアの向こうから聞こえる、彼女の消え入りそうな声。 ドスンッ、と音がした後、急に静かになる。 不安になったハイジが、そっとドアに耳を当てると…… ……ぴちゃっ、クチュッ…… 微かに聞こえる、卑猥な水音。 思春期を迎えようとしていたハイジの脳裏に浮かんだのは、″キス″という二文字。 瞬間、カッと頭に血が上り 鍵の掛かっていたドアをぶち破り 何処から調達したのか解らない、金属バットを手にしていた。 しかし、そこでハイジが見たものは……… 服を乱され、抵抗を失った彼女の両足を押し開き、そこに職員が顔を埋めている姿…… 「……気付いた時には、そいつの頭をバットで何度もぶん殴ってた……」 「………」 ボルトクリッパーで、フルスイングしたハイジ。 ……その時の光景とダブる。

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