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第41話

……きっとあの時のハイジも、同じ瞳の色をしていたんだろう…… 「………」 薬を載せたまま掌をきゅっ、と握る。 そして視線を静かに下ろし、ぼんやりとコットンタオルケットに包まれた膝を見つめた。 「……妬くなよ?」 「………え…」 ハイジの突然の言葉に驚いて、顔を上げる。 「彼女はオレの、……初恋の相手だったんだ」 「………」 「……何だよその瞳は。………少しは嫉妬しろよな」 真っ直ぐ瞳を向ければ、ハイジが直ぐに顔を逸らしてしまう。 その頬が、少しだけ赤い。 「………うん、わかった」 静かにそう答えると、ハイジが少しむくれた声を上げる。 「ったく、……全然してねぇだろ!」 「…………」 「まぁ、いいや。………良くねぇけど」 気を失い彼女の上に崩れる職員。 それを乱暴に足でどかし、ハイジは下敷きとなってしまった彼女に手を伸ばす。 ……カタカタカタカタ 焦点の合わない瞳。 彼女の唇、指、肩、両足が、まるで電流を流されたかの様に小刻みに震える。 「……最初は、凌辱されたからだと思ってたんだんだよ…… ……けど、彼女は明らかに……オレに怯えてた」 ………なんで…… なんで助けたオレを、そんな瞳で見るんだ………!! ……ハァ、ハァ、 室内に響き渡る、悲痛な叫び。 色んな感情が入り乱れ、彼女から手を引っ込めた後…… 金属バッドを持つハイジの手に、力が籠もる。 その手を、大きく振り上げる。 全ての感情の矛先は 助けようとしていた……彼女の顔面。 『……辞めとけ』 背後から伸びた手が金属バッドを掴み、強い力で引き止める。 「……それが、龍成さんだったんだよ」 龍成は、彼女と同じ時期に入所していた。 中一にして暴走族。 万引きやかつあげ、暴力、暴走行為、バイクの無免許運転等……補導や逮捕の数々を繰り返し、ハクをつけていた。 手に負えなくなった龍成の両親が、更生の為に施設へと放流……というものだった。 いつもは殆ど施設に帰ってこない龍成。 しかしこの日、偶々あの時間に戻ったのは………何か用事があったからなのか。 それとも単なる気まぐれだったのか…… 「……″俺が何とかしてやるから、お前はさっさと逃げろ″、って言われてさ……」 動揺したハイジから、龍成が冷静に金属バッドを取り上げる。 そのグリップを素手で握り、まるでゴルフでもするかの様に、何度も素振りをする。 ……ゴギャ、ドゴッ、 骨が砕ける様な、奇妙な音。 その鈍い音が背後から聞こえると、ハイジは振り返らずに暗闇へと続く廊下を走った。 「………」 ″ 施設に少し居たけど抜けた ″ ……小四で施設を抜けてから 単身外の世界で、どうやって生きてきたのだろう……… 住む所も無ければ、多分頼る所もない。 きっとハイジは、僕の想像を絶する苦労をしてきたのだろう。 ……施設の内か、それとも外か…… 結局ハイジにとって、どちらが幸せだったのか……… 「……ンな顔すんなよ…… あん時抜けたから、お前に出会えたんだぜ」

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