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第42話

歯の浮くような台詞。 だけど、軽いものなんかじゃない…… なんの反応も見せずにいると、ハイジが僕の手からペットボトルを奪う。 そして蓋を外し、再び僕の手に押し付けてくる。 「ちゃんと飲めよ、薬」 「………うん」 ゴホッ、ゲホゲホッ…… 喉がひゅぅっと貼り付き、苦しくて再び咳き込んでしまう。 「大丈夫かよ」 ハイジが直ぐに立ち上がる。 そして、丸めた僕の背中を、ハイジの手が優しく撫でてくれた。 ……ねぇ、ハイジ…… 施設を抜けた後…… どうやって生きてきたの? 竜一とは、どうやって知り合ったの……? あの時僕を突き放す事になった、ヤバい仕事って? その後……何処で何してたの……? 聞きたい事や知りたい事は……まだ山ほどある。 ……ゴホッ、ゴホッ、 なのに…… タイミング悪く、咳に阻まれてしまう…… 「……もう、ゆっくり寝とけ」 「う、ぅん……っ、ゲホッ」 ハイジの手が、離れる。 そして握り締めた僕の手を優しく解き、風邪薬を拾い上げる。 「風邪が治ったら、……外、連れてってやる」 ハイジの言葉に驚いて、頭を少し上げる。 そしてハイジの方を見れば、僕の隣……ベッド端に腰を下ろし、優しく見つめていた。 「……だからホラ、口開けろ」 「………」 言われるまま、唇を割って咥内を見せる。そこにハイジの指が近付けば、舌上にカプセル薬を落とされる。 ……唇に触れた指。 その指が少しだけ、震えていた。

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