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第43話 フレンチ・キス
×××
ジャラ……
首輪に装飾された鎖が揺れる。
フード付きの黒のパーカー。
そして、デニムのショートパンツ。
カットソーも下着も靴も、上から下まで全て、ハイジが新たに用意してくれたもの。
あの日のものは全て、ハイジが処分してしまった……
けたたましい音楽。
ディスコボールの光が店内を踊り狂い、人々の顔や体を、赤や緑、青、黄色……と一瞬だけ染め上げる。
グラスを傾け、丸テーブルを囲み談笑するグループ。
中央で馬鹿騒ぎをしたり、音に合わせて体を動かすグループ。
ナンパ待ちなのか、露出度の高い服を身につけた女性グループ。
そんな人達を掻き分け、ハイジが店の奥へと進む。
その背中を僕は、必死で追い掛ける。
熱が下がり、すっかり体調の良くなった僕は、半ば強引に引っ張られ、ハイジと一緒に浴室に入った。
″ ……もう、しねぇから ″
その言葉通り、ハイジはそういう事をしてこなかった。
イスに座らせた僕の髪を洗い、シャワーで洗い流してくれる。
……ひとりで、出来るから。
そう言った所で、ハイジは聞く耳を持たないだろう。
僕を必要以上に甘やかすのは、去年の夏……ハイジと付き合ってた頃と、何ひとつ変わらない……
こういう事に慣れていない僕は、それが何だか恥ずかしくて、擽ったくて……中々落ち着かない。
肩まで伸びきった髪。
それを後ろで纏め、簡単に水気を切る。
「……ハイジの髪、綺麗」
ふと顔を上げれば、ハイジが頭からシャワーを被っている。
浴室の照明が、その濡れたハイジの無機質な白金をキラキラと輝かせた。
「前もそんな事言ってたな」
「……うん」
あの時は、ブリーチし過ぎて溶けかかってた髪……みたいだったけど……
それでも、人形の髪みたいで……綺麗だなって思ってた。
「コレ、元は白髪なんだ」
「……え」
「気が付いたら、黒かった髪が見事に真っ白になっちまっててさ……
伸びてももう、黒い部分が生えてこないんだぜ?
……だから、どーせならプラチナブロンドにしてみよっかなぁーって」
……ハイジ……
胸の奥が、ズキン…と痛くなる。
少し目を伏せた僕の顔を、ハイジが容赦なくシャワーを掛ける。
「……っ、!」
「んな顔すんなって」
そう言って、僕に笑顔を向けていた、のに………
「……さくら」
浴室から出て、バスマットの上……
僕の髪を軽く拭いた後、バスタオルを僕の肩に掛けたハイジが、僕の胸元から脇辺りをじっと見る。
「……痩せたな」
そう言って浮き出た肋骨に指を伸ばし、そっと触れる。
洗濯板みたいになってしまったその溝を、確かめる様にゆっくりなぞりながら、寂しそうな瞳を揺らす。
「なんか、美味いもんでも食いに行くか」
「………」
店内の端にあるバーカウンター。
その天井はダウンライトで、ムーディな雰囲気が漂っていた。
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