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第45話
店内の端にあるバーカウンター。
その天井には、ムーディな雰囲気が漂うダウンライトがぶら下がっている。
「今晩は」
店の雰囲気には似合わない、清潔感溢れるバーテンダー。その彼が、近付くハイジに気付き笑顔を向ける。
「……腹減ったから、なんか美味いもん適当に作ってよ」
「了解」
針よりも細く、眼を細める。その笑顔を崩さぬまま、眼だけが見開かれる。
「……昨日、来ましたよ」
カウンターに片手を付いて身を乗り出すハイジに、バーテンダーが顔を寄せる。声のトーンを落としたようで。ハイジの背後にいる僕には届かない。
「………、来たら教えてくれ」
「了解」
「あ、そうそう──」
振り返ったハイジに二の腕を掴まれ、グイッと強く引っ張られる。
「こいつ、オレのオンナだから」
「……ぇ……」
唐突な台詞に驚き、ハイジを見上げる。と、ハイジが勝ち気な表情を浮かべ、僕の肩に腕を回す。
「可愛いからって、手ェ出すなよ?!」
ハイジの科白に、笑顔を崩さず目を細めたバーテンダーが、口を開く。
「承知しました」
頭が痛くなりそうな音楽。
人に揉まれながら、やっと目的地らしい奥の部屋の前で足を止める。
VIPルーム、……なんだろうか……
ハイジがそのドアを開ける。
──ドォンドォンッ
背後からの激しい音と内臓まで響く低音とは対照的に、室内は静かであった。
黒の高級テーブルに、L字型の革張りソファ。何人かの男女が肌を寄せ合い、絡まる腕や足……
本来の照明が落とされ、ピンク色の灯りがより妖しい雰囲気を醸し出せば、人々の欲望を刺激し、本能を剥き出しにする。
「……オイ、お前ら邪魔だ!」
その空気をぶち壊す、ハイジの一喝。
瞬間──絡まった男女が、一斉にハイジに顔を向ける。
「ンなにセックスしてェなら、ラブホ行け!」
「……」
その光景は、ハイジと出会ったゲイ専用のパーティーに似ていて。お互い合意の上でしているとはいえ、こういう空間は苦手だ。
それに……男の色欲を駆り立てようとする、強い香水と噎せ返る程の欲情した匂いが……
………気持ち、悪い……
手のひらがじりじりと痺れ、何だか苦しくて。ハイジの服の裾をきゅっと掴む。
「……んだよハイジ。お前だって釣ってきてんじゃん」
「へー、可愛い~」
「その首輪、まさか奴隷チャン?」
ハイジの仲間だろう男達が、僕を品定めしてニヤニヤする。
「………」
興味を僕に取られてしまった女達が、あからさまに嫌な顔をしたのが解った。
恥をかかされたとばかりに男達を突き放し、簡単に身形を整えると、男達を睨みつけて立ち去っていく。
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