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第44話

店の雰囲気には似合わない、清潔感溢れるバーテンダー。 その彼が、近付くハイジに気付き笑顔を向ける。 「……腹減ったから、なんか美味いもん作って」 「了解」 針よりも細く、瞳を細める。 しかし直ぐに笑顔を崩さぬまま、その瞳が開かれる。 「……昨日、来ましたよ」 カウンターに手を付き身を乗り出すハイジに、バーテンダーが顔を寄せる。 声のトーンを落とした様で、ハイジの背後にいる僕までは届かない。 「………来たら教えてくれ」 「了解」 「あ、そうそう……」 振り返ったハイジに突然二の腕を掴まれ、グイッと強く引っ張られる。 「こいつ、オレのオンナだから」 「……え……」 突然の台詞に驚き、ハイジを見る。 するとハイジが勝ち気な表情を浮かべ、僕の肩に腕を回す。 「……ハイジ……」 「可愛いからって、手ぇ出すなよ?」 ハイジの台詞に、笑顔を崩さず目を細めたバーテンダーが口を開く。 「承知しました」 頭が痛くなりそうな音楽。 人に揉まれながら、やっと目的らしい奥の部屋に辿り着く。 VIPルーム、……なんだろうか…… ハイジがそのドアを開ける。 ……ドォンドォン 背後からの激しい音と内臓まで響く低音とは対照的に、室内は割りと静かであった。 テーブルに、L字型の革張りソファ。 何人かの男女が肌を寄せ合い、絡まる腕や足…… 本来の照明が落とされ、ピンク色の光が妖しい雰囲気を醸し出し、人々の本能を刺激し剥き出しにする。 「……オイ、お前ら邪魔だ!」 それをぶち壊す、ハイジの一喝。 瞬間、絡まった男女が、一斉にハイジに顔を向ける。 「ンなにセックスしてーなら、ラブホ行け!」 「………」 その光景は、ハイジと出会ったキッカケとなった、ゲイパーティーと同じ。 お互い合意の上でしているとはいえ、こういう空間は苦手だ。 加えて男の色欲を駆り立てる様な、強い香水と噎せ返る欲情の匂い。 ………気持ち悪い…… 掌がじりじりと痺れ、何だか胸が苦しくて、ハイジの服をきゅっと掴む。 「……んだよハイジ。お前だって釣ってきてんじゃん」 「へー、可愛い~」 「その首輪、まさか奴隷チャン?」 ハイジの仲間だろう男達が、僕を見定めてニヤニヤとする。 興味を僕に取られてしまった女が、あからさまに嫌な顔をした。 恥をかかされたとばかりに、解りやすく男から身を突き放す。 そして簡単に身形を整えると、男を睨みつけてサッと立ち上がる。

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