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第48話
「……どした?」
そんな僕の様子に気付いたのか。優しい光を含んだ瞳を僕に向けたハイジが、緊張を解すかのように僕の肩を抱く。
「ハイジぃ……、何オレらに見せ付けちゃってんのぉ?」
「姫とシしたいなら、ラブホ行けよ」
「あー、それな!」
前方で馬鹿騒ぎをしていた男達が、先程の仕返しとばかりに軽口を叩く。
「──バーカ。お前らの前でスるかよ!」
口の片端を持ち上げ、そう返したハイジの手に力が籠もる。グッと更に引き寄せられれば、ハイジの髪と肌の匂いが鼻孔を擽った。
「……お待たせしました」
清潔感溢れるウエイター2人が、颯爽と部屋に入ってくる。その手には、数々の料理──サーモンのカルパッチョ。アボカドのサラダ。マルゲリータピザ…等々。
それらがハイジの指示で、目の前のテーブルに並べられていく。
「ほら、いっぱい食え」
大皿に盛られた焼飯。それをハイジが小皿に取り分けてくれる。
「……」
僕の為……なんだろうけど。病み上がりの胃にはキツい。
「遠慮すンなよ」
「……うん」
湯気と共に立ち篭める、香ばしい匂い。スプーンの先の方で掬えば、乗り切らなかった米粒がパラパラと崩れ落ちる。
それを口に運ぼうとして、止める。
ふと横を見れば、間近で僕をじっと見つめる、ハイジの眼。
「………そんなに、見られたら……食べ辛いよ」
「おぅ。悪ぃ」
口ではそう言うものの、解放する気はないらしい。愛おしむように目元を緩ませ、優しい光を揺らす。
「……」
肩を抱かれた時より、何だか恥ずかしい……
視界からハイジを追いやり、掬い取った焼飯をそっと口に含む。
「……失礼します」
その時、一人のウエイターが近付き、身を屈めてハイジの耳元に口を寄せる。
室内スピーカーから流れる音楽。馬鹿騒ぎをする3人の声。──それらが邪魔して、僕の耳にまでは届かない。
「………そうか」
低くそう呟いた後、ハイジがスッと立ち上がる。驚いて見上げれば、ハイジが僕に視線を落とす。
その眼には、先程まであった柔らかな色が消えていた。僕を愛おしそうに見つめた、あの優しい光の欠片さえも……もう何処にも見当たらない。
「……」
何処までも冷たく、深く……闇の色に覆われていく。
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