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第48話

その瞳が、僕から簡単に離れる。 無表情な横顔…… 人が変わったように、纏うオーラさえもガラリと変わってしまう。 ……待って、ハイジ……! ウエイターの後について行くハイジに手を伸ばす。 瞬間、ハイジが振り返る。 その瞳は既に闇に支配され、僕を捉えながらも僕が見えていない様子だった。 こうなってしまったハイジを……止められる自信はない…… ……だけど…… 後悔の念に駆られ、苦しむハイジの姿も見たくない…… 「………」 僕を制する鋭い眼圧。 それはほんの数秒……だけど確実に、僕の精神をも串刺しにする。 動けなくなってしまった僕を残し、無言で向ける背。 「………」 あの冷徹な瞳は、容赦なく誰かを傷付けようとする瞳だ…… 「……ハイジ」 その背中に小さく声を掛ける。 もう一度手を伸ばして引き止める勇気は、なかった。 「……さくら、いい子してろよ」 ハイジの低い声…… 綺麗な白金の髪が、ゆらりと揺れる。 「………!」 問いかけに、答えてくれた…… たった、それだけ…… ……だけど、そこに微かな希望が見える。 ハイジは……自分を見失ってない…… ほんの僅かだけど、ホッと胸を撫で下ろす。 そして、ドアの向こうへと消えていくハイジの背中を見送った。 ……パタンッ ドアが閉まる。 瞬間、ハイジのいなくなった室内の空気が変わる。 「………」 それを肌に感じつつ、ソファに腰を下ろす。 ……大丈夫だ この部屋にいるのは、太一と隣の男だけじゃない…… テーブルを挟んだ向こうに見えるのは、ハイジを慕うチームの三人。 ジンを片手に一台のスマホを覗き込んだ後、一斉に足技ダンスを競い合う。 「……バーカ、違ぇって!」 「クッソ……酔ってきた……」 「……飲みが足りねぇんじゃねーの?」 ……キラキラと輝く笑顔。 馬鹿みたいに騒いで、馬鹿みたいに笑って……楽しそう…… 見ているこっちまで、笑みが溢れてしまいそうになる。 その光景は、楽しかった溜まり場での生活の記憶を、簡単に掘り起こす。 ……懐かしい…… そんな事を思いながら、食べかけの焼飯に手を伸ばした時だった。 「………!」 隣にいた男の指が伸び、僕の前腿に触れ……感触を確かめる様にするりと滑る。 その瞬間、置かれた状況を思い出し、背筋が冷たいものが流れる。 それが次第にじっとりと、汗ばんでゆく…… 「……逢いたかったぜ、姫」 顔を寄せられ、耳元で熱い息を吐かれる。 「はぁ、はぁ……姫を食ってから、全然オンナで勃たなくなっちまってよォ……ハァハァ……」 「………」 「オカマに手ェ出してみても……コイツの舌が肥えちまって……ハァ、ハァ……姫じゃねーと食いたくねぇってよ……」 ……気持ち悪い…… 酒の混じった男の口臭が、容赦なく掛かる。男のもう片方の手が、自身のモノを布越しに弄り出す。

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