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第51話
──ギャハハ!
テーブルを挟んだ向こうと此方で、漂う空気が全く違う。しかし太一は、背後にいる男達を気にする様子はなかった。
「忘れろ」
追い打ちを掛けるように、太一がボソリと言い放つ。
「……」
僕に凌辱の限りを尽くし、心に深い傷を負わせておいて……
“ついでに”、“忘れろ”……?
「もし、今すぐ忘れねぇんなら……お前が本当は誰のオンナなのか、俺も忘れねぇぜ」
「……!」
こいつ……
僕が竜一のオンナだって、知ってる。
お互い、ハイジに殺されないよう腹の中に収めておこう──という提案であり、脅しだ。
「……なぁ、ハイジ遅くねぇ?」
そんな緊迫した空気を感じていないのか。足技を競っていたハイジ派の一人が、思い出したように呟く。
「あー、確かに」
その声に初めて太一が反応し、チラリと後ろを振り返る。
「………ヤベェな」
呟いたその台詞とは裏腹に、太一の眼がギラつき、口の片端がつり上がる。
「様子見に行ってくるか。………来いよ、お姫サマ」
悪巧みしたような、ニヤついた顔。
邪魔だとばかりに僕を襲った男を突き飛ばし、返事も待たぬまま僕の二の腕を掴んで引っ張り上げる。
……ドゥンドゥン
激しい音楽と共に、胸の深部にまで響く低音。踊り狂うディスコボールの光。
鼻を刺激する、化粧と香水の混ざった臭い。沢山の人々。騒がしい声……
圧痕が付くほど強く掴まれたまま、太一に引っ張られる。
「……あー、やっぱなァ」
僕と太一の前を、派手な格好をした男女が何人も行き交う。
「見ろよ、お姫サマ……」
太一をチラリと見上げれば、ディスコボールの赤い光がその横顔を掠める。
その瞳はギラつき、冷笑する表情 が不気味に浮かび上がっていた。
……ドゥン、ドゥン
遠くに見えたのは、店に入った時にハイジが立ち寄った、バーカウンター。
そこに、肩が触れ合う程顔を寄せる二つの背中が見える。
……ハイジ……?
そう思った瞬間、ハイジが勢いよくバーチェアから下りる。
と、カウンターからグラスが落ち、ハイジの足元で割れ散った。
「……お、始まったぜ」
直ぐ隣で響く、楽しそうな太一の声。
ハイジの片手が、見上げる男の胸倉を掴んで捻り上げる。乱暴に立たせ、男の喉元にその腕を押し付けながらカウンター上に仰向けに倒す。
サラッと揺れる、無機質な髪。
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