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第52話
───ハイジッ……!
「………、」
「おっと……」
飛び出そうとする僕の肩を掴み、太一が後ろに引っ張る。
「ハイジに、大人しく部屋で待ってろって言われてんだろ……?」
「………」
「まぁ、見てなよ」
二の腕を掴み、僕の背面にピタリと張り付く。
そして、肩口に寄せられる顔。
「……あれが、ハイジの仕事」
ハイジが何かを握り締め、男をカウンターに押さつけたまま腕を振り上げる。鋭く光るそれ。先の尖った金属だと直感する。
「………っ!」
それが、勢いよく振り下ろされる。
「……ぎィぃいや″ァぁあ″──ッ!!」
悲鳴とも発狂とも取れる、男の叫び声。
しかし……
店内に響き渡る、激しい音楽や騒がしい声、その他の雑音に埋もれてしまったのか。辺りにいる人達は、全く動じていなかった。
キャハハハ……
ワァー!!
……ドゥンドゥン
激しいダンスミュージックに合わせ、体を動かす男女。サバけたお姉様達にナンパをする、若い男性陣。颯爽とドリンクを運ぶウエイター。
「………」
「ああやって、裏切った奴を制裁したり、代理で金取り立てたりしてんだよ」
耳元に寄せられた唇。
吐息が掛かり、耳裏を僅かに熱くさせる。
「………ッ、!」
周りに、気を取られすぎていた。
気付けば太一の腕が僕の胸の前に回り、パーカーのファスナーを抓んでいた。
「……今年に入ってすぐ、いきなりハイジが俺らの前に現れてよ。分裂したチームの再結成ってやつ? まぁそんな感じで、また連んでんだけどよ……」
ジジジ……とゆっくり下ろされる。
「……姫も感じてんだろ?」
「………」
その手が、半分程開けたバーカーの中に侵入し、カットソーの上から胸を弄られる。
「ハイジが、別人みてぇだってよ……」
………止めろ。
そう叫んで突き飛ばしたいのに。身体が硬直して動かない……
「この首輪、ハイジが付けたんだよなァ……」
その手が、胸元から黒革の首輪へと厭らしく滑り上げる。
「セックス中に、首でも絞められたか?」
太一の熱い舌が僕の耳裏を這い、嬲るようにじっとりと食む。
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