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第53話
頭を傾げて逃れる。
しかし、太一の拘束までは解けない……
「……ハイジはよォ……俺らをよくここに呼び集めて、これと同じ|首輪《わっか》をしたオンナを輪姦させてんだぜ」
……え……
ゾクッ、……と背筋が凍りつく。
……ハイジが、そんな事……
「可哀想に……そのオンナ、顔も身体も痣だらけで。首輪を外してみりゃあ、絞められた跡がクッキリ残っててよ。……すっかり怯えきってたぜ……」
指先が冷え、感覚が無くなっていく。
……もし、それが事実なら……
さっき僕の隣にいた男がとった行動は、可笑しなものではなかったのかもしれない……
でも……だったら尚更。
どうしてハイジは、僕をあの部屋になんか………
『こいつには、ぜってー手ぇ出すなよ』
……ハイジ……
「俺らの知らねぇ所で、ハイジに何があったのかは知らねぇけど。恐らく、傷害事件で世話になった──辻田ってヤクザの影響だろうな」
暴漢に襲われてる中、ハイジを引き連れて部屋に入ってきた、龍成というヤクザの顔が浮かぶ。
辻田──何処かで、聞いた事があるような……
「それにしても」
太一のもう片方の手が、カットソーの裾から侵入する。
「会わねぇうちに、随分色っぽくなったなァ………お姫サマ」
首輪に触れていた指が僕の顎先に掛けられ、クィッと天井へと持ち上げられる。
「……こんな美味そうなご馳走、目の前でお預けされちゃあ、堪らないぜ……」
腰から脇腹にかけての曲線 を確かめる様に、太一の手のひらが肌を滑り上げる。そうしながら耳下の窪みに鼻先を寄せ、スゥと嗅ぐ。
「まぁ、お互い殺されねぇ様、気をつけようぜ」
*
ハイジがどんな仕事をしているのか──実際の現場を見たのは、初めてだった。
思い返せば、チームの溜まり場に住んでいた頃から、そういう部分に余り触れなかった気がする。
ハイジ自身が、話さなかったのもあるけど。気になった癖に、僕から聞いた事も無い。
「……」
太一に舐められた耳を拭い、その下の首筋を手で覆う。
剥き出しにされた心臓を、太一の濡れそぼつ大きな舌で執拗に転がされた様な……恐怖と憤り。
『……忘れろ』──太一の熱い息遣い。肌に纏う熱と感触……
自身の首筋に当てた指が、小さく震える。
……そんな簡単に……忘れる訳──
「……どうした?」
タクシーの後部座席。
窓ガラスに街のネオンが反射し、車の速度に合わせて光が走る。
ハイジを見れば、穏やかな表情をした瞳が僕を優しく包み込む。
「……」
「なんかあったか?」
「………ううん」
静かにそう答え、再び窓の外へと顔を向ける。
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