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第70話

その指先が肌に触れた瞬間……自分でも気付かぬうちに溜まっていた涙が、ぽろりと零れ落ちる。 「……泣くなよ」 空いている方の手が伸び、僕の頬を優しく包む。濡れた目頭に親指を当て、下瞼に沿ってその涙を拭う。 「………悪ぃかったな。 初めてここに連れて来た時、無理やりヤっちまって……」 「………」 「今も……正直、怖かったンだろ」 ……違う…… 怖かったんじゃない…… ハイジを見つめたまま、小さく頭を振ってみせる。 「……何だよ。ンなにしたかったのかよ」 「……」 「そこは、『うん』って言わねーンだな……」 緩く口角を持ち上げ、冗談めいた口調で吐く。 憂いを帯びた甘い吐息をひとつし、伸びきった僕の横髪に指を差し入れる。 ……ハイジ…… 見つめたまま、その手の甲にそっと重ねる。 「さくら……」 突然。発作の如く僕を引き寄せ、力強く抱き締める。 合わせた胸と胸。 心と心…… 心音が重なり、ひとつになっていく。 「もう……傷付けたくねぇし、傷付く顔も見たくねぇ……」 「……」 「……でも、愛情を注がれた事のねぇオレが、お前にちゃんと注げてンのか……時々解んなくて、不安になる……」 ハイジの手が僕の後ろ髪に触れ、繰り返し何度も優しく撫でる。 「……大事にすっから…… 今までよりずっと、いっぱい甘やかしてやりてぇし、嫌な事はしねぇ。この手で守ってやりてぇ。 ……だから、オレから離れんなよ。 ずっと、オレの傍にいてくれよ」 それは、僕を甘やかしているようで、ハイジ自身が僕に甘えているようにも思えた。 「……さくら…… もう一度、全部……オレのモンに、なって」 ズキン、と胸の奥が痛む。 それ程までに、ハイジの真っ直ぐな想いが伝わってくる。 「………うん」 ハイジの背中に手を回し、そっと添える。 ……ハイジ ずっと傍にいるよ…… ぼやけていく視界。 瞬きひとつすれば、濡れた睫毛に引っ掛かっていた雫玉が、ポロリと落ちた。

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