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第71話
バックヤードに入った瞬間、閉めたドアにドンッと強く背中を打ち付けられる。痛いと思う間もなく、片手で顎を掴み上げられ……
「……っ、」
奪うような……でも唇を押し当てるだけの、軽いキス。
……だけどその時間は、やけに長くて……
「誰とも、関わるんじゃねーぞ」
「………」
「……大人しく、ここで待ってろよ」
ゆっくりと離された唇。
それが、僕の眼前で小さく動いた後、少しだけ尖る。
心なしか……頬が少し膨らんで見え、気まずそうな瞳が揺れ動いた。
……もしかしてハイジ………嫉妬、して……
そう思った瞬間、柔らかな棘が胸に突き刺さったようで、ズキンと痛む。
「……うん」
「………」
そう答えた僕の唇に、その唇が再び柔く重ねられる。
次いで閉じた瞼、額……
流れるように軽く唇を押し当てられ………
ハイジの指が僕の横髪を掻き上げれば、現れた耳元に唇を寄せ、柔く食まれた。
……ハイジの熱い吐息。
爽やかな匂い……
甘く塗り替えられていく空気。
擽ったくて、ぴくんと体が震え
そっと、瞼を上げる。
「………」
だけどそこにあるハイジの瞳の中には、既にそんな色は見当たらない。
表情は堅く、体から発するオーラはピリピリと尖っていて、既に戦闘モードに切り替わっていた。
「……いい子してろよ」
決まり文句の様にそう言ったハイジは、僕から視線を外し、ドアノブに手を掛けた。
閉まっていくドアの隙間──
そこから、白金色の無機質な髪を揺らしたハイジの横顔が見えた。
鋭く尖り、残酷なまでに闇を孕んだ瞳。その黒目が動き、チラリと此方を見る。
「………」
目が合った瞬間、ハイジの口角が少し上がったのが見えた。
さっきのビジュアルホストと、同じ事……
そう思った瞬間。
カッと体が熱くなり、指先が痺れ、バクバクと心臓が激しく鼓動を打つ。
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