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第73話

何でこんなにドキドキするんだろう…… 良く、解らない。 解んないけど……ハイジが、格好良く見える。さっきのホストになんか、負けないくらい。 もし、ハイジがホストだったとしたら……きっとナンバーワンなんじゃないか、って思う。 髪型も髪色も、背格好だって。さっきの人と殆ど同じだった。けど、ハイジの方が数倍綺麗だし、纏うオーラも全然違う。 何より、箔が違う。 抱えているものがある分、どうしようもなく惹きつけられる。 無感情の眼に捉えられれば、底冷えするほど身体が震えてしまうのに。 トロトロした蜂蜜のように甘く、底なしに優しくされたら……きっと、どんな女性だって、ハイジの虜になってしまう── そんな事を思いながら、胸の奥がじりじりと焦がれていく。 ──カチャンッ ドアが完全に閉まり、姿が見えなくなる最後の最後まで……僕は、ハイジを目で見送った。 「……」 改めて、部屋の中を見回す。 奥の壁一面には、煌びやかな光を放つお洒落なドレッサー。その前には四人掛けのテーブル一式。 入り口側の壁にはロッカーとゴミ箱があり、冷蔵庫も置かれていた。 ……部外者の僕が、こんな所にいていいんだろうか…… そんな不安に駆られながらも、テーブルの椅子を引いて座る。 ……でも、あのフロアの一角で待つよりは、こっちの方が全然いい。静かで落ち着く。 塵ひとつない綺麗なテーブルに肘をつき、身を預けて目を瞑る。 冷たくて、気持ちいい…… 最後に見た、ハイジの眼が忘れられない。 あの鋭い眼で見つめられただけで、身体に緊張が走り……指先が震えて冷えていくのに、心臓が早鐘を打ち、身体がかぁっと熱くなるなんて…… ハイジにこんな感情を抱いた事なんて、今まであっただろうか…… 先程生まれた熱が、ひんやりとしたテーブルに吸い取られていく。そんな心地良さを感じながらうとうとし始めた時、突然ドアが開いた。 「……じゃあ、黒アゲハに可愛がって貰ってたんだァ」 その第一声に、一気に現実へと引き戻される。

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