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第74話
入って来たのは、プレイヤーらしき男性二人。高そうなジャケットの下には、ラフな丸襟の白シャツ。
ツンと毛先を遊ばせた短髪黒髪に、知的に見える黒縁眼鏡。その前を歩くのは、ライオンのたてがみの様な、オレンジ色の髪。低身長。幼顔。
「……はい」
「でもあの黒ハゲハ……あー、また噛んだ!……黒ハゲ? ハハ。もうハゲでいーや。
……あいつ、実はホモだっつーじゃん!」
「……」
「ナンバーワンだったのって、たった三ヶ月。しかもエース が男で、最終的にはソイツに喰われて一本釣り状態だったんだってな」
エース とは、指名客の中で一番お金を使う客の事。
一本釣りは、一人のお客に大金を使わせるやり方。
「んな奴の下じゃ、大変だったっしょ。そもそもナニ教わんの? 一本釣り? 男と枕 するやり方?
……可愛がって、って……ハハッ。まさかお前、あのハゲに掘られてねーだろーなァ!?」
ガンガンと、眼鏡ホストに捲し立てるライオンヘア。
「……いえ。接客作法から女性の扱い方まで。きちんと──」
「ハハハッ。女扱えんのかよ。てか、女相手にちゃんと勃つのか? ホモだったんだろォ?
すんなり芸能界入り果たしたんだって、モーホープロデューサーやディレクターに取り入って、鬼枕し まくった結果なんだろ?!」
「……」
どう見ても、眼鏡ホストの方が年上。だけど、ライオンヘアの方がこの店では先輩らしく、次々と垂れ流される愚考を押し黙って聞いている。
その光景を目の当たりにし、沸々と怒の感情が沸き起こる。
───バンッ、
両手でテーブルを叩き、勢いよく立ち上がる。ガタンと大きな音を立て、イスが後ろに動く。
アゲハが芸能界入りしたのは、僕のせいだ。
ホストになったのも、僕のせい……
お前らが思ってるような、最低な人間なんかじゃない。
───これ以上、アゲハを侮辱するなっ!!
ドロドロと、マグマのように腸 が煮えくりかえる。
カッと頭に血が上り、怒りで脳内が熱くなっているのに……指先は冷え、テーブルに付いた両手のひらから腕の付け根まで、痺れたように感覚がない。
押し潰されたように胸が苦しくなり、ハァハァと荒い息ばかりが耳に付く。
それに……言葉が、全然出てきてくれない……
「……ん?」
大きな物音に反応し、向けられる4つの眼。そこに僕の姿を映すと、男達の顔つきが一変する。
「あれ?……こんな所で、どうしたの?」
キメポーズなのか。ライオンヘアのホストが腰に手を当て、目を細めながら此方に近付く。
「可愛い迷子の仔猫ちゃん」
神経を逆なでする、ライオンヘアの猫なで声。そのホストが僕の前にしゃがみ込むと、上目遣いで僕を見上げる。
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