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第75話
「見ない仔猫 だけど……この店は、初めて?」
眉尻を下げ、上目遣いのまま数回瞬きをする。どうやら可愛さを売りにしているらしい。先程の話を聞かれていたのでは、という焦りや慌てた様子はなく、務めてホストを演じきっている。
整形しているのか。不自然な形の二重瞼。似つかわしくない鼻筋。
化粧をしているのだろう。真っ白な肌は、肌呼吸ができないほどの厚塗りをしている。なのに、表皮はボコボコとしていて決して綺麗ではない。
「………アゲハは、僕の兄だ」
やっとの事で、言葉を吐き出す。
侮辱した目で見下げ、整いそうにない呼吸を何とか整える。
「『ぼく』……?」
スッと男が腰を上げる。
間近に立つソイツは、背の低い僕よりも、僅かに高いだけの低身長。
僕を上から下まで舐めるように見た後、冷めた目付きに変わり口元を歪めてチッと舌打ちする。
「なんだ、男かよ……」
そう言って僕の顎に手を掛け持ち上げる。
「……なに。面接にでも来たの?」
「………」
「それとも、男漁り?」
口の片端を持ち上げ、僕の顔を値踏みする。
「確かに、ハゲに似てなくもねぇな」
「……」
「弟って事は、樫井秀孝と枕したんだろ? 兄弟揃ってホモとか、笑えんなァ」
顎から手を離し、僕の肩をトン、と強く押す。蹌踉けて後ろのイスに座ると、腕を組んだ男が僕を威嚇するように見下ろす。
「アゲハを侮辱するな」
「……ふぅん。やっぱ聞いてたんだ」
下から睨み上げるのに、僕では全然怖くないらしい。組んでた腕を解き僕の肩を掴むと、服を外側に向けて引っ張る。
「なにコレ。お盛んだねぇ……ハゲに付けられたの?」
「──ッ!」
カッと頭に血が上る。
こんな風に、直接詰られたのは初めてだ。
「……ちが、う……」
肩で男の手を振り払おうとする。がそれを許さず、男が身を屈め僕に顔を近付けた。
「他に、ドコ付けられたの?……チョット見せてよ」
バターンッ!
肩を強く押され両足が浮く。イスごと後ろに倒れれば、背中と後頭部に強い衝撃が走る。
脳内に響く鈍い痛み。目の前に散らばる、無数の白い点、点、点……
「オイ、新人! なにボーッと突っ立ってんだよ」
「……」
「コイツを押さえてろ」
「……えっ」
呼ばれた眼鏡が、動揺しながら駆け寄る。
「何するつもり、ですか……」
「ナニって……決まってんだろ。コイツの身ぐるみ剥ぎ取って、写真撮るんだよ。
……俺の下僕にするためにな」
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