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第74話

「見ない仔猫()だけど……ここは初めてかな?」 ライオンヘアは、どうやら可愛さを売りにしているらしい。 さっきの話を聞かれたとか、そんな慌てた様子もなく、務めてキャラになりきっている。 整形したのか……不自然な二重瞼。 それに、マスカラもしているのだろうか。 シミもクマもない、真っ白な肌。しかしよく見れば、肌呼吸ができない程厚塗りし、なのに肌表面はボコボコとしていて決して綺麗ではない。 「………アゲハは、僕の兄だ」 やっとの事で、口から吐き出す。 男を侮辱した目で見下げ、まだ整わない呼吸を何とか整える。 「………僕………?」 スッと男が立ち上がる。 背の低い僕より、少し高いだけの低身長。 僕を上から下まで舐めるように見た後、目つきが変わり、口元を歪めてチッと舌打ちする。 「なんだ、男かよ……」 そう言って僕の顎に手を掛けてくる。 「……なに。面接にでも来たの?」 「………」 「それとも、男漁り?」 やや乱暴に僕の顔の角度を何度も変え、値踏みする。 「確かに、どことなく黒ハゲに似てんな」 「………」 「……弟って事は、樫井秀孝と枕したんだろ? 兄弟揃ってホモかよ。笑える」 顎から手を離し、肩をトン、と押す。 後ろのイスに座らせた僕を威嚇するように、腕を組み、背筋を伸ばしたまま見下ろした。 「アゲハを侮辱するな……」 「……ふぅん。やっぱ聞いてたんだ」 下から睨み上げるのに、僕では怖くないらしい。 男が僕の肩を掴み、服を外側に向けて引っ張る。 「なにこれ。お盛んだねぇ…… ……黒ハゲにでも付けられたの?」 カッと顔が熱くなる。 こんな風に、直接詰られたのは初めてだ。 「……ちがう……」 肩で男の手を振り払おうとする。 だけどそれを許さず、男は身を屈め、僕に顔を近付けた。 「他にドコ付けられたの? ……見せてよ」 ガタンッ 肩を強く押され、イスから滑り落ちる。そのまま後ろに倒れ、背中と後頭部を強く打ってしまった。 頭がガンッと響き、脳内に無数の白い点が散らばる。 「オイ、新人!ぼーっとしてんな」 「……えっ」 「コイツを押さえてろ」 呼ばれた眼鏡が慌てて駆け寄る。 「なにする気ですか……?」 「……何って……決まってんだろ。ひん剝いて写真撮って…… コイツを、俺の下僕にすんだよ」

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