77 / 555

第77話

「こんな所で油売ってないで、ヘルプ回りでもしてきたら?………万年ヘルプくん」 切れ長の蒼眼が、不敵な笑みを溢す。 僕の言葉尻を真似て、童顔ホストをからかった。 ……こいつら、ヘルプ組だったのか。 それなのに、よくナンバーワンホストにまで上り詰めたアゲハを侮辱できたな。 ……事情なんか、何にも知らない癖に。 軽蔑した視線に、同情と怒りが混ざり合う。 「……は、はい。すみません」 僕からサッと離れ簡単に身形を整えた万年ヘルプくんは、何処か含んだような表情のままバックヤードから出て行く。 その後を、新人眼鏡があたふたと追い掛けていった。 「正直、見直した」 薄い唇の端が少しだけ上がる。 「この世界には似合わない匂いがしてたから、さっきの雑魚にやられちゃうかと思ってたよ」 ドアから離れ、金髪蒼眼ホストが僕の方へと近寄ってくる。 目を逸らさずそいつを下から睨み上げるけれど、僕では威圧感とかそういったものは一切感じないらしい。 「あんた、アゲハの弟なんだってね。どおりで何となく似てた訳だ」 独り言の様に呟き、頷きながら僕の傍らに立つ。そしてジャケットの裾をパンと手の甲で払った後、スッとしゃがみ込んだ。 「……で。アゲハの弟が、なんで大友組の狂犬と一緒にいんの?」 ……大友組…… こんな具体的な名前を聞くのは、初めてだった。 ハイジは、龍成って人の恩義を返しているだけ。暴力団組員じゃないって言ってた…… でも…… ……狂犬……って…… まさか、暴力団に飼われてるって訳じゃ…… 「アゲハがこの世界に飛び込んだのは、弟をヤクザから守る為だって聞いてたんだけど。……あれ、嘘だったの?」 切れ長の目が細められる。 口角を綺麗に上げた、営業スマイル。 そこには、何の感情も感じない──吸い込まれた所で、ブラックホールの様な闇が広がるだけ。 「………」 「まぁ、別にいいけど。 ……でも、これ付けてるって事は、ハイジに捕まって飼育されてるって事だよね」 押し黙る僕の首元に、ホストの手が伸びる。 黒革の首輪。それを下から指で引っ掛け、二度ほどジャラジャラと揺らす。

ともだちにシェアしよう!