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第79話
黒のロングヘア。目尻が少し吊り上がった、猫目。濃いアイシャドー。
一見キツそうで、どう見てもハイジよりも年上……二十代半ばくらいの派手な女性。
その見た目と雰囲気……
厳しいテーブルマナーの指摘。初回で場内指名したホストにピンドン入れてしまう金回りの良さから、恐らく職業は水商売系。
「最初は、単にハイジが引っ掛けて店に連れてきただけの女性だって思ってた。
初回送りを断って、ハイジと一緒に帰ってたのが気になったけどね」
場内指名とは、気に入ったホストを指名する事。
送りとは、気に入ったホストに店の外まで見送って貰う事。
「そのツンケンしてた彼女が次に来た時は、ハイジにベタ惚れ状態でさ。
想像できないくらいのデレ子ちゃんになってて……」
ハイジと離れ、一人卓についた途端。
腕組んで足組んでイヤホンを耳にして……指名したホストとヘルプを完全に無視したという。
「………」
解んない。
けど、その女性がハイジの腕に絡んで甘えて……ハイジが優しい笑顔を向け、彼女の髪に触れている所を想像して……
ズキンッと胸の奥が痛んだ。
「指名されたのが、まだ新人ホストだったから、盛り上げようと必死で……ちょっとかわいそうだったな。
……ま、そんなツンデレの彼女が最後に来た時……」
ガタガタガタ……
気の強いオーラは見る影もなかった。
人が変わったように大人しくなり、背中を丸め俯いて、長い髪で必死に顔を隠していた。
その髪の隙間から、チラリと見える大きめの白いガーゼ。
右手で必死に左腕を押さえ、決してその手を外さなかったという。
「その押さえてた右腕の目立つ所に、幾つも青痣があってさ。
口も利けない程震えてて……」
……ハイジが……暴力……?
そんな事……
「………」
僕が押し黙ると、ホストは二度目となる深い溜め息を漏らした。
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