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第80話
″ ……ハイジはよォ……俺らをよくここに呼び集めて、これと同じ首輪(わっか)をしたオンナを輪姦させてんだぜ ″
クラブで太一に言われた言葉が蘇る。
あの薄暗くて、多彩なディスコライトが踊り狂う中……後ろから抱き締められ、耳元で低く吐かれた声まで、一緒に。
もし、去年の僕なら……
ハイジがそんな事する訳ないって、突っぱねてた。
……だけど、今のハイジでは、容易に想像できてしまう……
何だかそれが、悔しい。
「………」
「じゃあさ、なんかあったら連絡して」
内ポケットから名刺が取り出される。
「……これ、渡してやりたいけど、証拠残す訳にはいかないから。
電話番号、今ここで覚えて」
その藍色の名刺には、プラチナ色した小さな月と散りばめられた星がキラキラと輝き、真ん中には同色で『麗夜』の文字。
その下に、携帯番号とアドレス。
その11桁の数字の羅列を、何度も目でなぞり頭の中で読み返す。
「……そういえばアゲハ、復帰するんだってね」
「え……」
驚いた。
突然話題が変わった事にも驚いたけど、アゲハが芸能界復帰する事にも驚いて、直ぐに顔を上げる。
「来期のドラマと、来年公開予定の映画に急遽出る事になったみたい」
「…………」
夢の中では、血塗れだった──
でも思い返してみれば、約束したピアスを返して貰っていたんだった。
そっか……
良かった。
「………!」
ホッと胸を撫で下ろし、安堵の溜め息をつく僕の頭に、麗夜の手が乗せられる。
なんでそんな事されるのか……解らない。
でも……
麗夜は僕を見ながら、僕の中のアゲハを見ている様な気がする。
同期とか友達とか……僕にはそういった類の相手はいないし、いた経験もない。
……でも、アゲハの周りには沢山の友達がいて、慕ってくる仲間がいて……
やっぱり、羨ましい。
目を伏せ、麗夜から視線を外す。
「……アゲハに、会ったの?」
苦し紛れに、吐いた言葉。
僕とアゲハの差を、見せ付けられた気分。
だけど、もう前みたいに妬んだり恨んだりはしない。
「……いや。たまに生存確認するくらい。もう俺とは住む世界が違うしね」
麗夜が電話を掛けるジェスチャーをしてみせる。
「じゃなくても、俺の所にアゲハの話題なら舞い込んでくるし。
一応これでもナンバースリーで、太客の中に、芸能関係者いるしね」
「………」
僕には、友達という感覚が解らない。
だから凄く単純な事を思ってしまうんだけど……
この人……アゲハの事
好きなんだな……
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