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第85話
アタッシュケースの前にしゃがみ、そっと床に寝かせる。音を立てず慎重に開けようとするものの……案の定鍵が掛かって開けられない。
ダイヤル式。
五桁の暗証番号。
これを一から順番に試すには、時間が掛かりすぎる。
振り返り、辺りを見回す。
真四角の部屋の奥……ドアと相向かいに位置する小さな窓。その足元に棚のようなものが置かれ、布なのかビニールなのか……何やら黒っぽいものに覆われている。
「………」
徐に立ち上がり、音を立てずに近付く。
きっと、小さな達成感があったからだろう。先程よりも幾らか緊張が解れている。
それでも……未知への扉を叩くのは、やはり怖い。
怖ず怖ずと手を伸ばし、その黒いものを摘まんで持ち上げる。
───!!
異様な光景──
LED照明に照らされる、生い茂った草。
とげとげしい葉っぱ。
山に自生していそうな、野草っぽいその形を……以前ニュースで見た事がある。
逮捕されたのは、自室で密かに栽培していたという男性。家宅捜索をする警察官達が、プランターごと大麻を押収する様子が報道されていた。
……これ……
瞬間──脳裏を過ったのは、ホストクラブでの出来事。
『………ねぇ』
声を掛けると、営業スマイルの麗夜が、表情を崩さぬまま僕をじっと見つめる。
『ハイジは、どうしてここに来たの?』
“みかじめ料の徴収だよ”──そう返ってくるものだと思っていた。
それしかないと。
だけど──それなら何で、飼育した女性を連れて来るんだろう。
そこが解らない。
『……』
アゲハの話からハイジに変えた途端、麗夜の表情が少し堅くなったのが解った。蒼い瞳が僅かに泳ぎ、軽く咳払いをした後、少しだけ僕に顔を近付け真剣な目を向ける。
『………クスリだよ』
『え……』
『オーナーを介して、その知り合いに売り捌いてるんだよ。奴隷として飼育した女性も一緒にね』
「………」
……本当の話、だったんだ。
大麻を目の前にして、あの話の信憑性が高まってしまった。
ハイジが暴力でねじ伏せたという女性も、実在していたんだろう。そして、飼育後に、売り飛ばされたという事も……
太一が言ってた、女性を輪姦した話も……まんざら嘘ではないのかもしれない。
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