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第84話

中に入り、静かに近付く。 アタッシュケースをそっと床に寝かせ、音を立てずに開けようとするものの……やはり鍵が掛かっていた。 ……ダイヤル式。 五桁の暗証番号。 これを一から順番に試すには、時間が掛かりすぎる。 そのまま、辺りを見回した。 四角い部屋の奥……ドアと相向かいに位置する小さな窓。 その足元に棚のようなものが置かれ、布なのかビニールなのか……何やら黒っぽいものが覆い被されている。 「………」 ゆっくりと立ち上がり、音を立てずに近寄る。 小さな達成感があったからだろうか。 先程より幾らか緊張は解けていた。 それでも……未知の扉を叩くのは、怖い。 ゆっくりと手を伸ばし、その黒いものを摘まんで徐に持ち上げた。 ………!! LED照明に照らされる、生い茂った草。 とげとげしい葉。 異様な光景。 山に自生していそうな、野草っぽいこの葉の形を……ニュースで見た事がある。 隠れて栽培していた人を逮捕し、警察官が押収している様子を映した映像。 「……ねぇ」 脳裏を過ったのは、ホストクラブのバックヤード内での出来事。 営業スマイルを見せる麗夜は、その表情を崩さないまま僕をじっと見つめた。 「ハイジは、どうしてここに来てるの?」 みかじめ料の徴収だよ。 そう返ってくるのだろうとは思っていた。 それしかないのだと。 ……だけど、それなら何で飼育した女性を連れて来るのだろう…… それが解らなかった。 話題を、アゲハからハイジに変えた途端、麗夜の表情が堅くなる。 蒼い瞳が少しだけ泳いだ後、少し顔を近付け、軽く咳払いをし僕を見据えた。 「……クスリだよ」 「え……」 「オーナーの知り合いに、奴隷に飼育した女と一緒に、売り捌いてる」 「………」 ……本当の話、だったんだ。 大麻を目の前にして、あの話の信憑性が高まってしまった。 ハイジが暴力でねじ伏せたという女性も、実在していたんだろう。 ……そして、飼育後に、売り飛ばされたという事も。 太一が言ってた女性を輪姦した話も……まんざら嘘ではないのかもしれない……

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