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第91話

………僕が、いけなかったんだ。 コソコソ隠れて、探るような事をしたんだから……ハイジが怒って当然だ。 見上げたハイジの瞳に映る光が、小さく揺れる。 少しだけ唇を割り、そこからやっと整った……穏やかな息が細く漏れる。 「………ハイジは、悪くない…… 僕が、最初から……ハイジに聞けば、良かった……ん、だ……」 声にならない声。 それでも。どうにか伝えたくて、頭を小さく横に振ってみせる。 酸欠から脱すれば、次第に収まってくる脳内の痺れ。その度に、全ての感覚が……痛みも含めてじわじわと身体に戻ってくる。 無理矢理こじ開けられた入り口は、熱を持ってジンジンと鋭く痛み、ナカは抉られた感覚と、内臓を突き上げるような鈍い痛みが蘇る。 鼻の奥には、鉄の味がする何かの塊。 頬に貼り付いた何かが乾いて、口を動かす度にバリバリした感覚が襲う。 「……」 多分……今、凄く酷い顔してる。 惨めなほど恥ずかしくて、今すぐ隠してしまいたい…… だけど。そんな事には構わず、ハイジはいつもと変わらない真っ直ぐな眼を僕に向けてくれる。 ………優しい瞳。 何故か、解らない。 ぶるぶるぶるっ、と身体が震える。 安心、したからだろうか…… その瞳をじっと見つめながら、まだ整わない呼吸を落ち着かせ、少しだけ深く呼吸をした。 「……あのホストとは……本当に何にもねーんだよな……?」 何処か遠慮がちに確かめるような、ハイジの声。膝抱っこをされたままの僕は、こくん、と小さく頷く。 「あー、酷ぇなオレ。そう聞いてもまだ、凄ぇ嫉妬してンだぜ」 照れ隠しなのか。眉尻を下げたハイジが口角を吊り上げ、苦笑いをしてみせる。 「……」 ハイジの嫉妬深さは、今に始まった事じゃない。 生い立ちや施設での出来事を考慮すれば、そうなってしまうのも仕方が無いと思う。 ……だけど、以前と比べて少し度を超しているような気もする。 「さくらはオレのモンだって、この世の全ての人に、見せつけてやりてーのに…… いつ、さくらが奪われるか……心変わりしてオレから去っていくか、不安で。 ……このままずっと、ここに閉じ込めておきてェ気分になっちまう……」 そっと、僕の横髪を撫でる手。 冗談っぽい口調。……だけど、冗談には聞こえない。 それだけハイジは、本気で僕を─── 「………いい、よ。 僕を、ハイジの好きにして」 閉じ込められたって、いい。 ハイジがそう望むなら……そうされたって構わない…… ゆっくりと瞼を閉じ、ハイジの次の言葉を待つ。 「……ンじゃあ、一緒に……逃げようぜ」

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