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第91話

予想外の台詞に、驚いてハイジを見上げる。 「さくらと一緒に、知らねぇ土地でひっそりと暮らすのもいいな……って」 「………」 「何だよ」 悪ぶった口調。 でも、何処か照れたような……嬉しそうな声。 「前に話したろ?……オレは暴力団組員じゃねーって。 ……だから、抜けるも抜けねぇもねーんだけど……結構この世界に足突っ込んじまってるし…… ……龍成さんには、マジで頭上がンなくてさ」 ハイジの瞳が揺れる。 憂いが灯り、弱々しいその光に胸が締め付けられる。 小さな溜め息をつき、遠い過去を辿るように僕から視線を外した。 「……覚えてっか? 去年の夏、チームで海岸沿いを走らせた時の事」 ……ドクンッ 瞬間、心臓が大きく胸を打つ。 ハイジが豹変して、狂気的になってしまった時の事だ。 「あン時、さくらにちょっかい出した野郎をオレがボコったろ?」 「……うん」 「ソイツ、あの後………死んでさ……」 ハイジの温かな腕の中にいながら、ゾクッと寒気がした。 無意識に、首元に手を当てる。 『死』という言葉に、体は正直に反応を示すものの………脳内では、何処か現実離れしたような感覚が襲う。 一年程前の出来事だからだろうか。 それとも、僕にとってどうでもいい赤の他人だからだろうか。 それでも、ハイジが犯してしまった事を思えば、じわじわと罪悪感が湧き上がり胸中が痛む。 あの夜、ハイジが酷く怯えていたのは……そういう事……だったんだ…… 「その後始末をしてくれたのが、龍成さんなンだよ」 「………」 そういえばあの時……ハイジは、何処かに電話を掛けていた。 その相手が……龍成だった……って事……? 「……違ぇよ。オレらのチームのバックに付いてる暴力団組員(やつ)の知り合いが、偶々龍成さんだったってだけだ」 声が、漏れてしまったのだろうか…… 「その見返りに、オレは薬を売りさばかなきゃなんなくなってよ……」 ″ 今度、オレやべぇ事すんだよ。 もう会えなくなるかもしれねぇ ″ 「………」 そんな……

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