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第92話

縋るように、真っ直ぐハイジを見上げる。 「薬さばきながら、詐欺の受け子もやって、売春斡旋も手伝って………」 「……え」 人を一人……いや、二人処理した事に対する見返りは高くつき、麻薬をさばくだけに留まらなかったらしい。 龍成の先輩であり恩人である、所謂半グレ集団の菊地という人物を紹介され、ハイジはそこで受け子、売春斡旋の手伝いをやったのだという。 「……捨て駒みてぇな事をやってるうち……気付けば、このザマだ」 「………」 ……僕の、せいだ…… 僕があんな所に居なければ…… 声なんて、掛けられなければ…… そしたら、今頃ハイジは チームのみんなと、今も…… 沸々と湧き上がる罪悪感に、胸が押し潰され苦しくなる。 楽しかった日々。 みんなで走って、バカやって………多分、あの時が一番自由で、キラキラと輝いていた。 浜辺ではしゃぐ、チームの仲間達。 今すぐあの日に戻って、全てをやり直したい。 ハイジを……これ以上苦しめたくない…… 視線に気付いたハイジが、僕を見下ろす。 柔らかな目元。 僕の不安を払拭するかのように、形の良い唇の端が緩く持ち上がった。 「……この大麻(はっぱ)だけどな。 これで逃亡資金を集めてンだよ」 視線を外したその先……LEDの光を浴びる大麻を見据えながら、ハイジがぽつりと呟く。 「最初は薬の常習者に値段吹っ掛けて、そっからバレねぇ程度に少しずつくすねてたンだけどな。 ……全然貯まんねぇし。全然時間も足りねぇし。 で、困ってた所に金儲けの話を持ち掛けてくれた人がいてさ……」

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