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第95話

唇が、微かに震える。 そのせいか、声まで震えていたような気さえする。 もしそうなら……このまま売られたっていい。 どうなったって、構わない…… ……もう、これ以上…… 僕のせいで、誰かが傷付くのは嫌だから…… 諦めの気持ちが溢れ、血流に乗って毛細血管にまで行き渡る。 小さな吐息を漏らし、色を失った瞳を僅かに伏せれば、視野に映るハイジの瞳光がみるみる尖っていったのが解った。 「───ンな訳ねーだろっ!!」 鋭利な怒声。 僕の手をぐっと握ったハイジが間近に顔を寄せ、視線と視線をぶつける。 「オレがさくらを、あんな卑劣な所になんか売ったりしねぇよ!」 「………っ、」 鋭い眼力。 しかし、その奥には……寂しさや憎しみといった複雑な感情が入り交じり、何処か泣き出しそうに潤んでいた。 「……」 目が、離せない。 心臓を鷲掴みにされる。 「そうしたくねぇから、一緒に逃げンだろ? ……解れよ。そんぐれぇ……」 「………ハイ………ッ、ん」 唇を、強引に重ねられる。 吐しゃ物に塗れ、臭う僕に。何の躊躇もなく…… 大麻を照らしていたLEDが、自動でパッと消える。瞬間辺りが真っ暗になり、ハイジと僕に闇が襲う。 震える身体。震える指先。 頼れるのは、ドアの隙間から差し込む……細長い光だけ。 「……もう、さくらを手放したりなんか……しねぇから」 トサッ…… そっと、冷たい床の上に寝かされ、僕の顔の横に肘を付いたハイジが見下ろす。 「オレだけのモンだ。……誰にも、触らせたくねぇ……」 熱い吐息と共に舞い降りる、ハイジの唇。 「………して、いいか?」 鼻先が触れる程の距離で、一度止まる。 柔く囁いた声が鼓膜に響き……色を無くした僕の心を、僅かに震わせる。 「今度は、優しくすっから」 「………ん、」 ハイジを見つめたまま答えれば、直ぐそこにある唇がゆっくりと迫る。 ……はぁ、はぁ…… ハイジの甘い吐息。 肌を合わせ、唇が重なり、トクトクと高鳴る心音が共鳴していく。 ハイジの背中にそっと腕を回せば、あたたかな温もりを感じて……酷く安心する。 ……そうだ…… 最初から僕は、ハイジのモノだったんだ…… 「して……」 睫毛の上下を柔く重ねれば、目尻から涙が溢れ落ちる。 何をされたって、いい。 ……僕を、ハイジの好きにして───

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