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第104話
顎裏……歯列……頬裏……
嬲り、掻き回し、わざと僕から欲情を引っ張り出そうとする。
それに従いそうになりながら、ハイジの手を柔く握り返した。
抗いの意思を示すように。
「………」
唇が、ゆっくりと離される。
僕の顔を覗く瞳が尖ったまま、一瞬だけ揺れた。
「……セックスしたって話まで、オレにすンじゃねーよ。………聞きたくねぇ」
「………」
「それにあいつの名前、連呼し過ぎだろ」
白金の髪が揺れ、ハイジの視線が完全に外される。
その切れ長の鋭い瞳は、地を這うかの如く徐々に殺意が押し迫っていた。
「……もう、全部知ってっから。
昔の仲間にお節介野郎がいてさ………オレに逐一密告してきたからな」
昔の……仲間……?
″ ……もし、今すぐ忘れねぇんなら
お前が本当は誰のオンナなのか………俺も忘れねぇぜ ″
……まさか、太一が………?
「………」
でも、太一がそんな危険な橋を渡るだろうか……
「……オレのさくらにチョッカイ出して、思い通りにしてたかと思うと……
スゲェ頭にくるし、今すぐぶっ殺してやりてぇよ……」
……ドクンッ。
駄目……それは……
掌を合わせたハイジの手が、怒りで震えている。
吐き出す息も、荒い。
「……ハイ、ジ」
縋るようにハイジの名を呼ぶ。
その声に反応したハイジが、真っ直ぐ僕を見下ろす。
視線が合った途端、先程までの荒々しさは収まり……口角を緩く持ち上げ、もう片方の手が僕の前髪を徐に搔き上げた。
「……それでもさくらは、ちゃんとオレん所に戻ってきてくれたンだよな。
抱かれながら腰振ってオレを求めて、煽情的な声まで上げて……オレで感じて……
………だろ?」
じっと見下ろすガラス玉の瞳。
搔き上げた手がそのまま頬を包み、親指の腹で僕の下瞼をスッと引いた。
「………」
感覚が僅かに無くなり、全身は微かに震える。
ちゃんと息してるのか、涙が溢れてしまったのか──自分でも解らない。
上擦ったままハイジを見上げれば、まだ邪気を奥に潜めたままの瞳が緩み、優しい声色で僕に囁く。
「心配すンなよ。奴を殺したりなんか、しねーから」
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