108 / 558
第108話
「……ッ、」
不意に。口から怒張が引き抜かれ、髪を摑まれたまま後方へと強く引っ張られる。
強制的に上向かれる僕の顔。何の感情もない双眸が、それを捉える。
ガッッ──
一瞬、──だった。
拳が振り下ろされ、顎先に近いエラの部分に強い衝撃が走る。
骨の軋む音。鈍い痛み。
手加減などなく──振り切った拳の向かう先へと、顔が吹っ飛ぶ。
「………!」
脳内に響く衝撃。
まるで、脳振盪 を起こしてしまったかのよう。
掴まれていた髪が、ブチブチと何本か抜け切れる。だけど、鳴り響くお堂の鐘の真下にいるかのように、ぐわんと大きく脳内が揺れ──
何とも奇妙な感覚。頭皮の痛点にまで、神経が回っていないみたいだ。
……はぁ、ぁ……
口の端から、唾液だか何だか解らない……何かがつぅっ、と垂れ落ちる。
「……痛ぇよ」
「………」
「歯ァ立てんな、っつったろ」
酷く冷たい声。
ぶるっ、と身体が震える。
………ハイジ、……だけど……
ハイジじゃ……ない……
「………は、ぃ……」
小さく唇を動かした後、乱れた髪をそのままに視線を上げる。
瞼に掛かる前髪の向こう側に見える、ハイジの顔。口角を片方だけ吊り上げ、二つの眼にはどこまでも深い闇が支配していた。
眼前にそびえ立つ、太くて赤黒い……ハイジの凶器。
下腹部に張り付くように反り上がり、色んな液に塗れ、てらてらと光っている。
その重厚な存在感に、ぶるっと身震いする。
整わない呼吸。落ち着かない心臓。
大きく口を開き、僅かに舌先を差し出して、迎え入れる準備を整える。
「………」
震えてしまう指先──手錠をされたまま、ハイジの下肢にそっと両手を添える。
……好き……ハイジ、好き……
…………好き……だよ……
舌先で裏筋を刺激し、先端を咥え込みながら優しく包み込む。瞼を薄く閉じ、咥内で張り詰めていく怒張を飲み込み、喉奥まで導いていく。
……僕には……ハイジしか、いない……
ハイジ……だけ………
「………ぅンっ、」
卑猥な水音に混じって響く、鼻から抜けるようなハイジの声。
その声が聞こえる度、ゾクゾクッと快感が身体の深部を駆け抜ける。
僕で感じていると解って、酷く安堵する。
───クチュッ、ちゅっ……
アイスを頰張り、溶けた部分を舌で絡めて吸い取るように……何度も転がしながら、舐め取って……先走った液を全て飲み込む。
「………ハァ、ッ……」
ハイジの、熱い吐息。
前髪の隙間から覗き見れば、先程までの鋭さが僅かに緩み、恍惚とした表情へと変わっていた。
ともだちにシェアしよう!