110 / 558

第110話

夢と現実が入り混じったような、微睡みの中──ガツンと鈍器で後頭部を殴られたような衝撃が走る。 瞬間、辺りの景色がマーブル状にぐにゃりと歪む。 苦しい…… 怖い……痛い……怖い…… ……けど…… 「……」 暗くて底冷えする場所に突き堕とされながら、徐々にその環境に適応していくような、奇妙な感覚。 まるで、暗闇に段々と目が慣れていくみたいな……… こういう屈辱を孕んだものに、何度も虐げられた経験があるからだろうか。 それとも。こういう状況下に陥ると、誰もがこうなるのだろうか。 段々と正常な意識が戻ってくる。不思議と、冷静さも取り戻しつつある。 身体の方は、まだ、震えてしまうけれど…… 「………」 自身を握り締め、上下に扱く。 無理矢理掘り起こされた快感は、やっぱり深部に留まったまま、中々沸き上がろうとはしてくれない。 そもそも、こうして自ら弄った事なんてあっただろうか。誰かに弄られる事はあっても、自慰行為に耽った記憶なんて幾ら探しても見つからない。 元々淡白なのか。 性被害に遭いすぎて、性そのものに対しての興味が人より薄れてしまっているのか。 それとも……… 「……ん、っ」 皮を根元まで引っ張って、裏筋を中心に何度も刺激を与えれば………何とか熱が集まって、膨張してくる。 瞼を完全に閉じ、意識をソコに集中させれば、ピクンッと僅かに反応してくれた。 「……、…ぅ……」 小さいながらも何とか屹立し、やっと硬くなってきたような気がする。 あと、少し……だ…… ……あと……少…… 「………今、なに考えてた」 ガッ、 突然、腕を摑み上げられる。 と同時に、黒革の首輪の下にある僕の首に、もう片方の手が掛けられる。 「……誰を想像したンだよ」 「っ、……」 指先に力が籠められ、頸動脈を絞められる。 ドクドクと、それを押し返すほど強く脈打ち、頭の中がぼぅっとし……苦しさと恐怖に震え、身体が竦み上がってしまう。 「オレか?……それとも、奴か?」 「………」 冷ややかなハイジの双眸。 深い闇を孕んだその眼に捉えられれば、その視線や恐怖から……逃れられない。 それでも。僅かに首を横に振る。 「嘘つくなよ、さくら」 指先に力が加えられ、脈動が激しくなり……血液の流れる音と共に、鼓膜を執拗に叩く。 「今までオレに抱かれながら……奴との行為を思い出してたンだろ……?」

ともだちにシェアしよう!