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第110話
夢と現実が入り混じったような、微睡みの中──ガツンと鈍器で後頭部を殴られたような衝撃が走る。
瞬間、辺りの景色がマーブル状にぐにゃりと歪む。
苦しい……
怖い……痛い……怖い……
……けど……
「……」
暗くて底冷えする場所に突き堕とされながら、徐々にその環境に適応していくような、奇妙な感覚。
まるで、暗闇に段々と目が慣れていくみたいな………
こういう屈辱を孕んだものに、何度も虐げられた経験があるからだろうか。
それとも。こういう状況下に陥ると、誰もがこうなるのだろうか。
段々と正常な意識が戻ってくる。不思議と、冷静さも取り戻しつつある。
身体の方は、まだ、震えてしまうけれど……
「………」
自身を握り締め、上下に扱く。
無理矢理掘り起こされた快感は、やっぱり深部に留まったまま、中々沸き上がろうとはしてくれない。
そもそも、こうして自ら弄った事なんてあっただろうか。誰かに弄られる事はあっても、自慰行為に耽った記憶なんて幾ら探しても見つからない。
元々淡白なのか。
性被害に遭いすぎて、性そのものに対しての興味が人より薄れてしまっているのか。
それとも………
「……ん、っ」
皮を根元まで引っ張って、裏筋を中心に何度も刺激を与えれば………何とか熱が集まって、膨張してくる。
瞼を完全に閉じ、意識をソコに集中させれば、ピクンッと僅かに反応してくれた。
「……、…ぅ……」
小さいながらも何とか屹立し、やっと硬くなってきたような気がする。
あと、少し……だ……
……あと……少……
「………今、なに考えてた」
ガッ、
突然、腕を摑み上げられる。
と同時に、黒革の首輪の下にある僕の首に、もう片方の手が掛けられる。
「……誰を想像したンだよ」
「っ、……」
指先に力が籠められ、頸動脈を絞められる。
ドクドクと、それを押し返すほど強く脈打ち、頭の中がぼぅっとし……苦しさと恐怖に震え、身体が竦み上がってしまう。
「オレか?……それとも、奴か?」
「………」
冷ややかなハイジの双眸。
深い闇を孕んだその眼に捉えられれば、その視線や恐怖から……逃れられない。
それでも。僅かに首を横に振る。
「嘘つくなよ、さくら」
指先に力が加えられ、脈動が激しくなり……血液の流れる音と共に、鼓膜を執拗に叩く。
「今までオレに抱かれながら……奴との行為を思い出してたンだろ……?」
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