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第111話

……違う。 違うよ…… そんな事、一度も…… 視線で訴えるも、僕を捕らえたハイジは……それを許さない。 「……なぁ、さくら」 ガラス玉のような眼が尖り、ハイジの口角が片方だけ吊り上がる。 ただ、それだけで……勝手に身体が震えてしまう。 「オレと別れた後も、ずっと待ってたって……言ったよな?」 「………」 ──そうだ。 ここに捕らえられて直ぐ、風邪を引いてハイジに看病された時── 竜一との関係を打ち明けるタイミングを見失って。怖さも相まって。 誤解、させたままになっていた…… 「嘘、ついたんだろ? 本当の事を言ったら、オレに殺されるとでも思ったンだよな。 ───なァ!?」 寄せられる眉根。鋭く尖る目尻。 首に掛かったハイジの手が、黒革の首輪の下に潜り込む。と、首輪が上へと押し上げられ、必然的に顎先が天へと向けられる。 もう一方の手──僕の腕を摑んでいた方の手が外れ、萎え縮んでいる僕の肉茎へと伸びる。 「……」 殺されるかもしれない……って思ったのは、本当…… ……でも……嘘、ついた訳じゃない。 ハイジを待ってたのは……本当だよ…… 溜まり場を出た後、行き場を失い……そのまま風に流されて、泥水の中に散って沈んでいく僕を掬い上げてくれたのが……竜一だった。 僕は竜一と、一緒になった……けど…… ……ハイジと再会して、ここで一緒に過ごしていくうちに、愛おしさが増して…… ハイジの事を知っていくうちに……深い所で繋がっているんだって、気付かされて…… 本気、……だったよ。 ハイジとなら、何もかも捨てて。 一緒に逃亡して。 一生、ハイジに添い遂げようと…… 「………っ、!」 強く握られたソレを、乱暴に擦り上げられる。 皮を強く引っ張られ。乾いた指で痛めつける様に、何度も何度も── 「何とか言えよっ……、!」 千切れるような鋭い痛みが、脳天を突き抜けていく。 ……ッ、痛……ぁ、……! 戦慄く身体。 何度も乱暴に扱かれるソコが、ヒリヒリと痛んで熱を持つ。 「……、っ」 その痛みを逃すように、歯を食いしばりながら息を吐く。意識を他の場所──締められてる首元へと向ければ、少しずつ感覚が麻痺していく。 その刹那── ぽたぽたぽたっ、…… 零れ落ちる、大粒の涙。 ガラス玉のような、綺麗な瞳から。 僕の頬に当たり、既に自身の涙で濡れていたそれと混ざり合う。 ……ハイジ…… 鋭く尖った眼。 それは、涙で濡れていて。 何処か哀しげに見えて…… 手錠のかかった両手をゆっくりと持ち上げ……折り曲げた人差し指の背で、涙に濡れた頬を拭おうと、そっと寄せた。

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