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第112話

このまま……好きにして ハイジになら、どうされてもいい…… 既にぼやけた視界が、溢る涙で更に歪む。 上下に揺れるハイジの顔が、もう……よく見えない。 ぼんやりと見えるのは、無機質な白金の髪と肩の彫り物だけ。 自由に優雅に舞い飛ぶ、アゲハ蝶。 流され儚く舞い散る、桜の花片。 その羽根が徐にひらひらと動き 花片が、その羽風にひらひらと散りゆく…… まるで、その幻想が 僕に訴えかけるかのように…… 「……ハィ……ジ、……、っ」 腫れぼったい唇を小さく動かす。 内頬が、殴られた衝撃で歯先で抉ったんだろう。 切れた所を舌先で触れれば、痛みと血の滲む味がした。 縋りつくように、ハイジを見つめる。 「ごめん、ね……」 痙攣する声、指先。 体は確実に、恐怖に犯され怯えきっている。 苦しくて、上擦った息遣い。 痛さで麻痺する後孔。 その奥から僅かに沸き上がる、快感。 その僅かなそれにしがみついて、自己防衛しようとする体と精神。 「……好き、だった……よ……」 大好きだった── 僕にとって、大切な存在だった……… でも、僕は既に……竜一を選んでしまっている─── もし、去年の春……アゲハが竜一を家に連れて来なかったら。 初めてを奪われていなかったら。 竜一に対する気持ちに、気付いていなかったら。 ハイジのチームの後ろ盾になっていた竜一に、再会しなければ。 ハイジ不在の中、太一派の数人から集団レイプされ……竜一に支えて貰わなければ…… 「………」 もし。 この沸き上がるハイジへの感情の多くが、ストックホルム症候群の症状であると、気付く事なんて、なかったら……… 「……お前……」 「っ、!」 ハイジの動きが止まる。 血だか何だかわからない潤滑油代わりのものが少し乾いてしまって、それだけで激痛が走る。 「………んなの、ぜってー許さねぇからな」 「……あ、ぁ″ぁ……っ、ぅう″……っ、」 再び始まるピストン。 擦れて、捲れて……激しさと苦しさで、声が漏れてしまう。 「俺と一緒に逃げるって、言ったよな……!? ……もし俺に悪ぃと思ってンなら………黙って付いて来いよ、さくらっ!」 近付く顔。 「……っ、ぅン……」 唇を、塞がれる。 こんな酷い顔の、僕に。

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