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第115話

腫れ上がった唇を割って、ハイジの熱い舌が入り込む。 奥に潜む僕の舌を見つけると、全てを優しく包み込むようにして吸い上げる。 クチュ、チュッ…… それでも、怯えてしまう。 手も、肩も、足も……僅かに強張って。 ……チュッ、 リップ音を残し、ゆっくりと唇が離れていく。 鼻先数センチの距離で止まり、熱い息を吐きながら、僕を見つめるハイジの双眸。 「……」 甘く、色気に満ちた視線。 憂いを帯びた、優しい表情。 一瞬で切り替わった瞳の光に、戸惑いを隠せない。 「……俺には、いねーんだよ。 さくらしか……いねぇ……」 微かに動いた唇が、僕の目尻にそっと当てられる。 僕の足を下ろした手が、僕の横髪に伸ばされ……怖ず怖ずと触れる。 まるで、壊れ物にでも触れるかのように。 「………悪ぃかった。 痛かったよな……ごめん。さくら……」 「……」 「いきなりお前が、変な話すっからよ。……つい、カッとなっちまって……」 「……」 ……確かに。 ハイジの言う通り、こんな話をしなければ……殴られたり、蹴られたり、酷い事なんてされなかった。 僕が悪いんだ。 僕がこの状況を、自ら招いてしまったんだ。 罪悪感が、津波のように一気に押し寄せる。 「愛想、尽かすなよ。 オレから離れたいなんて、言うなよな。 ……オレ、努力して……変わるからさ」 ハイジ…… 『特別な感情』──多分、これがそうなんだろう。 心臓が、これ以上にない程ドキドキして。身も心も燃え上がるように熱くなって。 ハイジに、僕の全てを委ねたくなってしまう。 どうしようもなく、引き寄せられる。 また殴られるかもしれないのに。怖くて、仕方がないのに。 今すぐハイジにしがみついて……安心したくなる。 |赦《ゆる》して欲しいと、縋りつきたくなる。 ハイジには、僕しかいない。 僕が、傍にいてあげなくちゃ……ダメなんだ─── 「……ハイ、ジ……」 震えが……止まらない。 さっきから、必死で抑えようとしてるのに。 「ごめん……ね」 何とか、告げる。 『うん』──そう答えてしまいそうになるのを、必死に堪えて。 「……」 ごめんね、ハイジ。 僕のせいで、人生を狂わせてしまって。 ……僕の、せいで…… 「……さくらっ!」 手錠の鎖から離した手を、僕の項の下に差し込まれる。 横髪に触れていた手がベッドに付き、僕の身体を抱えながら上体を起こす。

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