113 / 555

第113話

腫れた唇を割り、ハイジの舌が入り込む。 舌先が奥に潜む僕の舌を見つければ、全てを優しく包み込んで吸い上げる。 クチュ、チュッ…… それでも、怯えてしまう舌。 手も、肩も、足も…… 僅かに強張る。 ……チュッ、 リップ音を残し、唇が離れる。 鼻先数センチの距離で絡められる、ハイジの色気に満ちた視線。 憂いを帯びた、優しい表情。 一瞬で切り替わった瞳の光に、戸惑いが隠せない。 「……俺には、いねーんだよ。 さくらしか……いねぇ……」 唇が、僕の下瞼に当てられる。 僕の足を抱えた腕を外し、その手が徐に僕の横髪に伸ばされ……柔く指先だけで触れてくる。 腫れ物にでも触るかのように。 「……悪ぃかった。痛かったよな…… ごめん。さくら……」 「………」 「いきなりお前が、変な話持ち出すからよ……つい、カッとなって……」 「………」 もし言わなかったら 殴られたり、手荒くされたりなんて事は……なかった…… 僕が悪いんだ。 僕がこの状況を、自ら招いたんだ。 罪悪感が津波のように、一気に押し寄せてくる。 「愛想、尽かすなよ。 オレから離れたいなんて、言うなよな。 ……オレ、努力して……変わるからさ」 ハイジ…… ″特別な感情″ 多分、これがそうなんだろう…… 心臓が、これ以上にない位ドキドキして 身も心も燃え上がるように熱くなって ハイジに、僕の全てを委ねたくなる。 どうしようもなく、引き寄せられる。 また殴られるかもしれないのに。 怖くて仕方がないのに。 今すぐハイジにしがみついて……安心したくなる。 赦して欲しいと、縋りつきたくなる。 「………」 ハイジには僕しかいない。 僕が、傍にいてあげなくちゃ……ダメなんだ…… 「……ハイ、ジ……」 震えが……止まらない。 さっきから、必死で抑えようとしてるのに。 「ごめん……ね」 何とか、告げる。 『うん』──そう答えてしまいそうになるのを堪えて。 ごめんね、ハイジ。 僕のせいで、人生を狂わせてしまって。 ……僕の、せいで…… 「さくら……」 僕の両手を拘束する手錠から手が離れ、ベッドと僕の項の間に腕が差し込まれる。 横髪に触れていた手はベッドに付き、上体を起こしつつ一緒に僕の体を引き上げた。

ともだちにシェアしよう!