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第117話 **

××× ガギッ、ギチチ…… 手を動かして引っ張れば、僕を拘束した手錠の鎖部分が、咬ませたベッド柵の金属と擦れ合って耳障りな不協和音を立てる。 ……はぁ、……あ…… さっきよりも、意識が大分戻って来る。痛さと苦しさで、呼吸はまだ少し乱れてしまうけれど。 窓の方を見れば、薄明るい光がカーテン越しから優しく溢れている。 もう夜が明けたのかと、大きく息を漏らす。 「戻ったら、逃げンぞ。一緒に」 「………」 数時間前。 僕をベッドに拘束した後、スーツに着替え、手櫛で髪を簡単に整えたハイジが口を開く。 その姿を、僕はぼんやりと見つめていた。 襟元を弄りながらもう片方の手をベッドに付き、僕の顔を覗き込むと触れるだけのキスを落とす。 「……」 抗おうなんて、思わない。 ハイジの望むままを受け入れる── でも、それでいいとも思っていない。決して。 「……いい子、してろよ」 ハイジの手が伸び、僕の頬をひと撫でする。 優しくて、穏やかな瞳。 海よりも深い闇が、その奥に潜んで見えるけれど…… 同時に襲ってくる、身の危険を感じるゾクゾク感と、指先まで痺れる緊張感。 身体の中で化学反応が起き、心臓が酷く高鳴りながらも、カァッと一気に全身が火照る。 どうしようもなくハイジに惹かれてしまうのを、おかしいと感じながら。 「んな顔すンなって。……すぐ戻ってくるからよ」 再び舞い降りる唇。 でも、今度は唇じゃなくて。 前髪をそっと掻き上げられ、剥き出されたそこに熱が当てられる。 ギシッ、 ベッドが僅かに軋む。 伏せた目を上げれば、鼻先数センチの所に、ハイジの唇が…… 「………んっ、」 触れられて直ぐ、唇を割られる。 侵入したハイジの舌が、咥内を弄りながら奥に潜む僕の舌を突っつく。それに答えようと自ら差し出し、ハイジの舌に絡めた。 ……クチュッ、 絡み付いては舐り、吸い上げられ……ハイジの咥内へと誘われる。 このままでは駄目だ、と頭の片隅で警鐘を鳴らしているというのに。 「………はぁ、っン、」 ねっとりとしたハイジの唾液が、舌を伝ってゆっくりと流れ込む。 それを抵抗なくこくん…と飲み込めば、舌を絡めたまま僕の咥内へと戻される。 クチュ、チュッ…… 一通り咥内を弄った後、ハイジの舌が引き抜かれ……ゆっくりと離される。 ……はぁ、はぁ 触れそうな距離で、熱い吐息が掛かる。柔く瞼を持ち上げれば──再び重ねられる唇。 今度は、唇の上と下を交互に食んで………それから、名残惜しそうに離れていく。 「………じゃあ、な」 穏やかな声色を残し、部屋を出て行くハイジ。 その背中を、ぼんやりと見送る。 「……」 黒のスーツに、サラリと靡く白金色の髪。 よく映えて、綺麗だな……と見蕩れながら。

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