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第115話 **
×××
ガチッ、ギチチ……
手を動かして引っ張れば、僕を拘束した手錠の鎖部分が、咬ませたベッド柵の金属と擦れ合って耳障りな不協和音を立てる。
……はぁ、……あ……
さっきよりも意識が大分戻って来た。
痛さと苦しさで、呼吸は少し乱れてしまうけれど。
窓の方を見れば、薄明るい光がカーテン越しから優しく溢れている。
もう夜が明けたのかと、大きく息を漏らした。
「戻ったら、逃げンぞ。一緒に」
「………」
数時間前。
僕をベッドに拘束した後、スーツに着替え、手櫛で髪を簡単に整えたハイジが口を開く。
その姿を、僕はぼんやりと見つめていた。
襟元を弄りながらもう片方の手をベッドに付き、上から僕の顔を覗き込んで触れるだけのキスを落とす。
「……」
抗おうなんて、思わない。
ハイジの望むままを受け入れる──
でも、それでいいとも思っていない。決して。
「……いい子、してろよ」
ハイジの手が伸び、僕の頬をひと撫でする。
優しくて穏やかな瞳。
海よりも深い闇が、その奥に潜んで見えるけれど……
同時に襲ってくる、身の危険を感じるゾクゾク感と、指先まで痺れる緊張感。
その二つが体内で化学反応が起き……ドキドキと胸が高鳴り、カァッと一気に全身が火照る。
どうしようもなくハイジに惹かれてしまうのを、おかしいと感じながら。
「んな顔すンなって。……すぐ戻ってくるからよ」
再び落とされる、キス。
今度は額、瞼、順……
ギシッ、
ベッドが僅かに軋む。
瞼を徐に上げれば、鼻先数センチの所にハイジの唇が……
「………んっ、」
触れて直ぐ、唇を割られる。
ハイジの舌が僕の咥内を弄り、僕の舌を突く。それに答えようと自ら差し出し、ハイジの舌に絡める。
……クチュッ、
絡み付いては舐り、吸い上げられ、ハイジの咥内へと誘われる。
………このままでは駄目だ、と頭の片隅で警鐘を鳴らしているというのに。
「……はぁ、っン、」
ねっとりとしたハイジの唾液が、舌を伝ってゆっくりと流れ込む。
それを抵抗なくこくん…と飲み込めば、舌を絡めたまま僕の咥内へと戻ってくる。
一通り弄った後、僕の咥内から舌が引き抜かれ……
「………」
少し離れた唇。が、……直ぐに重なる。
今度は僕の唇の上下を何度も食み………それから名残惜しそうに、離れた。
「……じゃあ、な」
「……」
穏やかな声色を残し、部屋を出て行くハイジ。
その背中を、僕はぼんやりと見送った。
黒のスーツにサラリと靡く白金色の髪。
よく映えて、綺麗だな……と見とれながら。
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