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第119話

トントントン…… 足音が近付き、ドアノブが下がる。 ガチャンッ 勢いよく開かれたドア。 そこから現れた姿に、僕は絶句した。 「………え、姫?!」 驚いた顔が、声を上げた。 視線が合ったまま、暫く外せない。 ……どうして どうしてここに…… 「なんで姫が、ここにいるんスか……?!」 慌てた様子で僕に駆け寄ったのは……モルだった。 最後に見た時と変わない姿──毛先に向かって黒から赤へのグラデーションの髪。肩ぐらい長いその綺麗な髪を、後ろにひとつに束ねている。僕に負けず劣らず、幼顔で低身長。 「………」 「てか……何が、どうなってんスか?! 姫は、リュウさんの所にいたんじゃ……」 モルは、ハイジの元チームメイトであり、僕と竜一との仲を唯一知る人物。 「……ハイジと何か、あった………んスよね……コレ」 クリッとした瞳が揺れ、そこに僕の全てが映る。 恥ずかしい……とは不思議と思わない。 モルにはもう、色んな場面に遭遇して、僕の全てを見られている。 ……今更隠しても、仕方がない。 「……」 「……モル」 やっとの事で、声が出る。 モルはいつだって、僕がピンチの時に現れてくれる。 凌の時も。若葉の時も。 何だか酷くホッとして、気が緩んで、涙腺まで緩んでしまいそうになる。 小さく割った唇から、ふぅ……と浅い溜め息をひとつついた。 「……ハイジは、何も悪く……ない、から……」 「でも……こんな……」 見かねたモルが、僕の足元に丸まっていたケットを引っ張り上げて、胸元まで覆ってくれる。 「酷いッス。何があったんスか」 「……ねぇ。これ外す鍵、何処かに落ちてない?」 「鍵?………あっ!」 そう呟いてしゃがみ込んだモルが、何かに気付いて直ぐに立ち上がる。 そして苦々しそうに目を伏せた後、自身のポケットを弄った。 「……もしかして、コレ……」 取り出したのは、小さな鍵。 直ぐに僕を拘束する手錠に視線を向け、手を伸ばす。 カチャッ…… 小さな鍵穴に差し込んで回せば、拘束していた輪っかが簡単に外れた。 「……そっか。そういう事だったんスね……」 モルが真剣な顔で僕を見下ろした。 「実は、呼び出されて……さっきまで会ってたんスよ。……ハイジと」 「……え」 モルの意外な言葉に、僕は驚きを隠せなかった。

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