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第120話

ほんの一時間前。 多分、僕が眠っている間。 繁華街の某所で、モルはハイジと会っていたという。 「『大事なモン忘れたから』って。この鍵渡されて……」 「………」 モルに……僕を連れて来るように頼んだって事……? でも、どうしてモルに……わざわざ……? 「……俺、リュウさんに……連絡します」 何処か遠くの一点を見つめながら、何の躊躇もなくモルが上着のポケットを弄る。 でも……そんな事したら…… ハイジに…… 「モル……お願い」 まだ体のあちこちが痛むけど、体をゆっくりと起こす。 ……っ、! 後ろの傷口に痛みが走り、内腿が震え、腰もガクガクとしてまともに動けない。 「大丈夫……ッスか?」 モルが手伝って起こし、ベッドから落ちていた大きめの枕を拾って軽く叩いて、僕の背に用意してくれる。 それに小さく頷きながら、痛くないように膝を折り曲げて背を預けた。 「……ハイジに、会わせて」 開けたケットを持ち上げ、前を隠す。 はぁ……、と息を吐き、モルを見上げた。 「ハイジの所に、連れてって」 僕の言葉に、モルが目を丸くした。 「……え、」 「………お願い」 「マジっすか?!」 「うん。……ちゃんと話しておきたい事があるの。 もし、モルがその席にいてくれたら……凄く助かる」 もしかしたら、モルがハイジの抑止力になるかもしれない。 「……え。それって、姫。 ハイジのオンナに戻りたい……って事ッスか……?」 「……え……」 モルの言葉に驚く。 何だか話が、上手く噛み合ってなくて……二人の間に漂う空気に違和感が生じる。 「もしそうじゃないなら……ハイジはちゃんと解ってると思うッスよ。 俺に鍵渡して、『持ち主に返しといてくれ』『行けば解っからよ』って。そう言ったんスから……」 「……」 ……ハイジ…… 胸の奥がツキン…と痛む。 目頭が熱くなり、込み上げてしまいそうになる涙をぐっと堪えた。 あのキスは……お別れのつもりで……

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