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第123話

……どうして、気付かなかったんだろう。 ハイジは最初から……僕を…… その時の気持ちを思うと……苦しくて。 堪えようとしていた涙が溢れ、頬を濡らす。 「リュウさんに、連絡……しますね」 僕の様子を伺いながらも、モルが念押しする。 「………」 濡れた睫毛を持ち上げ、意思の強い瞳と合わせると、ゆっくりと頷く。 ……声にしたら、涙がまた溢れてしまいそうで。 手にしていた携帯を操作し、モルが背を向ける。 しかし、出ないのか。再び画面を見ながら掛け直し、耳に当てる。 「……モル」 膝を抱えたまま、背中にそっと声を掛ける。 「モルは今まで、どうしてたの……?」 竜一が用意してくれたアパートに連れて行ってくれた日から……モルの姿を見かけなかったのが気になっていた。 「……」 モルの動きが、止まる。 携帯を持つ手が徐に下がり、ゆっくりと僕の方へと振り返る。 その表情は、何処か険しく。先程までとは違う雰囲気を醸し出していた。 「……太田組の組長が、亡くなったんッス」 モルの眉間に、皺が寄る。 「太田組は、東神会の中でも勢力のある組織なんッス。その組長が引退して、二代目をタイガさんにって話があったんスけど。本来なら、若頭の大友さんがなる筈だったみたいで……揉めてる最中だったんッス」 「……」 「それが突然、組長が亡くなって。組内の大友組と虎龍会の対立が激しくなって──今、潰し合ってる状態なんスよ」 『兄貴が継いだら、俺を解放する約束をしてくれてる。……上手くいきゃあ、お前のいる世界に戻れる』 ──以前、竜一はそんな事を言っていた。 僕は裏社会の事なんてよく知らないけど。そんな危険な状況だからこそ、僕が巻き込まれないよう警戒していたんだ…… 「俺は今……リュウさんのいる虎龍会じゃなく、大友組のパシリみたいもん、やらせて貰ってるんッス……」 少しだけ落ち着かない様子で、モルの視線が横に外される。 「……そっか…… だから、竜一の運転手が……モルじゃなかったんだ……」 「そうッス」 そっか……良かった。 僕はまた、モルに何かあったんじゃないかって思ってたから…… 「……」 ……でも…… どうしてモルは竜一側じゃなく、敵対する組織の方に付いたんだろう……

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