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第124話
竜一なら、モルを手放したりなんかしないのに。
……もしかして、潜入してるとか……?
凌さんの時みたいに。
「……姫、シャワー浴びますか?」
通話を諦め、携帯をポケットに仕舞いながら近付くモルが、痛々しそうに僕を見下ろす。
「それとも、濡れタオルで身体を……」
「………モル」
徐に言葉を遮れば、モルの瞳が揺れた。
聞きたい事なら、まだある。
ハイジに連れてって貰ったクラブのVIPルームに、元チームのメンバーが揃う中……モルの姿が無かった。
竜一との関係をハイジに漏らした、お節介野郎って──
「……なっ、何スか?」
「僕の事、ハイジに言った……?」
「え?」
真っ直ぐモルを見上げていれば、目を丸くしたモルが真っ直ぐ僕を見返す。
「……僕が……竜一のオンナ、だって……」
「まさか! んな事言ったらヤベェ事になることぐらい、解ってますって!」
眉尻を下げ、モルが声を上げる。
「姫自身も危険かもしれないッスけど。俺も、ハイジの周りにいる奴らも……その腹いせに、殴り殺されるかもしれないんスから」
「……」
確かに……
殺すまではいかなくとも……無傷では、いられないかも。
それに……やっぱり、モルがそんな事をする筈ない。
「今のハイジは、チームやってた頃のハイジとは全然違うんスよ。
内部抗争があった頃に再会したんスけど……その時にはもう、“大友組の狂犬”って言われる程、ドス黒いオーラを放ってたッスから」
再会した時の事が思い出される。
何の躊躇もなく、ボルトグリッパーで作業員の頭をフルスイングしたハイジ。
確かに、別人のように変わっていたけど。以前と変わらない、優しいハイジも存在してたよ……
モルから視線を外して俯く。
「………聞いたんスよ。
龍成さん……あっ、ハイジの恩人で、大友組の若頭補佐をやってる方なんスけど。
その龍成さんから……ハイジが変わったのは、父親と再会してからだって」
「───!」
……ハイジの、父親……
『母親をレイプした男のDNAが、オレの|体内《なか》で暴れ回ってんのかなって、思うんだよ』
ドクンッ……と大きな鼓動を打つ。
「そのハイジの父親なんスけど。
……コンクリート詰め事件って……姫、知ってますか?」
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