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第123話
モルを見上げ、小さく首を横に振った。
「十五年くらい前。
……姫が生まれる前ッスね。
コンクリ詰め事件は……当時、世間を騒がせて……今でも『世紀の大事件』って言われてるんス……」
「……」
むしゃくしゃし、ハイジの母親を襲って三度レイプした翌日。
ハイジの父親は、同級生である女子高生を拉致。
当時連んでいた、ガラの悪い仲間と用意したプレハブ小屋に閉じ込め、そこに女子高生を拘束。監禁。飼育。
次々と連れてくる男達の性奴隷。思い付く限りのプレイや憂さ晴らしの暴行の数々を、一ヶ月半に渡って楽しんでいたという。
「……その光景は、反吐が出る程残酷で悍ましかったそうッスよ……」
ゾクッ……と震える。
溜まり場で、太一らに輪姦された時の光景と感覚が、否応なしに思い出される。
……それが一ヶ月半も続いた事を思うと……胸が苦しい。
「殆ど飲まず食わずの状態で、精神的にも肉体的にも衰弱しきった女子高生を、どう処分するか困った連中は……ドラム缶とモルタルを用意して……」
……生きたまま、コンクリ詰めにした──
「その主犯格が、ハイジの父親だったんッス……」
「……!」
″ 何処までもお前、……オレと似てんだな ″
あの時……ハイジが本当に言いたかったのは、この事だったんだ……
犯罪者の息子、じゃない。
凶悪犯罪者、の息子。
それ故の差別。苛め。虐待。
──宿命。
そして、連鎖。
「それ知って、……ハイジは変わったんだと思うんス」
「……」
" ……オレ、すげぇ……自分が怖ぇよ…… ″
ハイジが暴力に怯える理由は……
自分が、父親のような残忍な人間に変わってしまう事。
人を平気で傷つけて、殺すことも厭わない精神に染まって、感覚が麻痺して……
″ オレ、……さくらを失うかと……本気で…… ″
″ ……もう、傷つけたくねぇのに…… ″
僕から離れた本当の理由も
……そういう、事なんじゃ……
ケットをギュッと握る。
俯いて瞼を強く閉じれば、緩んでしまった涙腺から涙が少しだけ滲む。
「……姫、大丈夫ッスか……?」
事情を知らないモルが、心配して僕の背中に手を置いた。
優しく、宥めるように……僕の背中をそっとさする。
「……モル」
その瞳のままモルを見れば、心配した表情のモルが僕を見ていた。
「ハイジは変わってないよ。
……ハイジは、ハイジだ……」
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