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第125話
………コンクリート詰め、事件……?
モルを見上げたまま、小さく首を横に振る。
「今から、20年くらい前ッスかね。
コンクリート詰め事件は──当時、世間を震撼させた事件らしく、今でも『世紀の大事件』なんて言われてるんッスよ」
「……」
都内某所。
むしゃくしゃしていたという理由だけで、帰宅途中の女子高生──ハイジの母親を襲い、三度もレイプした翌日。ハイジの父親は、同級生である女子高生を拉致。
当時連んでいた、ガラの悪い仲間と用意したプレハブ小屋に閉じ込め、そこに女子高生を監禁。拘束し、飼育を始める。
性奴隷小屋──次々と男達を連れてきては、思い付く限りのプレイや憂さ晴らしの暴力行為の数々を、一ヶ月半に渡って楽しんでいたという。
「その光景は、反吐が出る程残酷で、|悍《おぞ》ましかったそうッス……」
「……」
ゾクッ……と背筋が震える。
溜まり場で、太一らに輪姦された時の光景と、あの時の感覚が否応なしに引き出される。
……それが、一ヶ月半も続いた事を思うと……胸が苦しい。
「殆ど飲まず食わずの状態で、精神的にも肉体的にも衰弱しきっていた女子高生を、今度はどう処分するか困った連中は……ドラム缶とモルタルを用意して……」
……生きたまま、コンクリート詰めに──
「その主犯格が、ハイジの父親……だったんッス」
「───!」
『お前……何処までも、オレと似てンな』
──あの時……ハイジが本当に言いたかったのは、この事だったんだ……
“犯罪者”の息子、じゃない。
“凶悪犯罪者”の息子。
それ故の、差別。苛め。虐待。
──宿命。
そして、連鎖。
「それ知って、……ハイジは変わったんだと思うんス」
「……」
『……オレ、すげぇ……自分が怖ぇよ……』
ハイジが暴力に怯える理由は……自分が、父親のような残忍な人間に変わってしまう事。
人を平気で傷つけて、殺すことも厭わない……冷徹な精神に染まって、感覚が麻痺して……
『オレ、……さくらを失うかと……本気で……』
『……もう、傷つけたくねぇのに……』
僕から離れた本当の理由は、……そういう、事なんじゃ……
「……」
ケットを強く握り締める。
再び涙腺が緩んでしまい、顔を伏せ瞼を固く閉じる。
「……姫、大丈夫ッスか……?」
僕の事情を知らないモルが、丸めた僕の背中を擦ってくれる。
優しく、宥めるように……
「………モル」
濡れた睫毛を持ち上げモルを見上げると、心配そうに眉尻を下げたモルに向かって口を開く。
「変わってなんか、ない。
……ハイジは、ハイジだ……」
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