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第124話
「……姫」
「……」
心外そうな瞳が僕を捕らえる。
モルは、知らない。
ここでの事を、何一つ。
僕が暴力を受けたという事実しか、多分見えてない──
「……シャワー、浴びたい。
モル、肩貸して……」
視線を下げ、小さく呟いてケットから片手を外す。ベッドにその手を付きながら、腰を浮かせモルに少し近寄った。
「了解ッス」
モルがベッド端に座り、肩に僕の腕を掛け引っ張り上げようとした。
──その時だった。
「……よぉ、モル!」
突然ドアが開き、低い声と共に大きな影が入ってきた。
黒革の靴。高級スーツ。オールバックにドス黒いオーラ。
何処からどう見ても、ソッチの世界だと解るその人は……
「……龍、さん」
モルの驚いた声。
「……」
忘れもしない。
竜一のアパートに、ハイジと一緒にいた──大友組の若頭補佐。
「ここまで案内、ご苦労だったな」
「……!」
眉尻を吊り上げ、モルが息を飲んだのが解った。
……後を付けられでもしたのだろう。
「……まさか、ハイジがこんな所に住んでたとはなァ」
そう言いながら、此方へゆっくりと龍成が近付いた。
僕の背中に回っていたモルの手が、僕の二の腕を摑み、強く引き寄せる。
「……モル。さっきお前、『姫』とか言ってなかったか?
何だお前……そのオンナに惚れてんのか……?」
龍成がベッドの角にドカッと座る。
そして足を組み、顎に手を掛け、少し離れた所から僕をジッと見据えた。
「まさか。ハイジの姫ッスから」
へらっと笑ってモルが答えれば、龍成の口端が緩く持ち上がった。
「……山本のオンナ、の間違いだろ?」
ねっとりとした嫌な視線が絡み付き、僕は龍成を睨み返した。
「それと、アゲハの弟。
だよなァ。……工藤さくら」
その目が据わり、瞬時に迫力が増す。
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