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第126話

冷めた目で僕を見下げながら、龍成が近付く。 僕を庇うようにモルがベッドから降り、龍成の前に立ちはだかった。 「……そ、それは無理ッス。 姫は今、怪我してて……そんな状態じゃ……」 「モル」 「……ぅ、」 龍成の太い片手が伸び、モルの胸倉を摑んで捩り上げる。 喉が締まり、顎が上向き、引っ張り上げられるままモルの踵が持ち上がった。 「……さっきから煩ぇんだよ。 誰にモノ言ってんだ………あぁっ、!?」 目をひん剝いた龍成が、片腕だけでドンッとモルを突き飛ばす。 「テメェ。好きなオンナの前だからって、イキがってんじゃねぇぞ……」 尻餅を付き、後ろ手で体を支えたモルが顔を上げる。と、その目の前に、龍成がしゃがみ込んだ。 「お前にとっちゃあ大事なお姫サマかもしれねぇが 俺にとっちゃあ、単なる駒のひとつでしかねぇんだよ……」 その瞳はガラス玉のように冷ややかで、蔑みながら容赦のない熱を孕み、鋭く尖っている。 まるで、獲物を狙う蛇のような目。 それでも体の小さいモルが、ガタイのいい龍成に、怯まず鋭い眼光を向けていた。 「イキがってなんか、ねぇッス。 ……俺にとって姫は、『希望』なんスよ。 その希望を守れるなら、俺はどんな事も受け入れる覚悟ッス」 「……言ってくれんじゃねーの」 片手でモルの喉元を鷲摑み、フンッと鼻で笑う。 その指が細い首にギリギリと食い込み、絞められる度にモルの瞼がピクッと反応する。 「……」 そっと自分の首元に触れた。 思い出される……絞められた時の苦しみ。 「俺が死ねって言ったらお前、死ぬ覚悟はあるんだよなァ……」 その横顔が、邪鬼に満ちている。 ハイジの話──施設での出来事を話してくれた時の、龍成の経歴の悪さをふと思い出す。 ハイジが職員を金属バッドで殴った後、更に躊躇なくトドメを刺した辺り……モルに容赦など、しないんだろう。 「……止めろ」 龍成を見据えながら、口を開く。 その声に反応した龍成が、目玉だけを動かし、僕を刺すように睨んだ。 「僕が、その世話になった人の所に行くから……モルとハイジを、見逃してよ」 声が、震える。 ……だけど、僕が何とかしなければ……二人は…… 「……度胸あんじゃねぇか。 でもよォ……二人いっぺんってぇなると……フェアじゃねぇよなァ……」 モルの首に掛かる手を少しも緩めず、龍成が尖った瞳のまま少しだけ此方に顔を向ける。 「もう一つ、条件を飲め」 口角をクッと不気味に吊り上げ、 その唇が動いた。

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