130 / 558
第130話
……どうして、ここに……
吉岡、が………?
ガールズバーで竜一と落ち合い、ドア向こうへと消えていく二人の姿が思い出される。
「………バカが」
軽く舌打ちし、眉間に皺を寄せた龍成が小声でそう吐き捨てると、肩で風を切りながら吉岡の方へと向かって行く。
「……姫」
立ち上がったモルが、龍成の眼を掻い潜り、僕の傍まで駆け寄る。
「何も、されなかった……ッスか……?」
「……ん。大丈夫」
心配そうに僕の顔を覗き込むモルに、口角を持ち上げただけの笑みを返す。
「それより──」
目の前のモルから、入り口付近に立つ二人に視線を移す。
「あの人って……」
「……ああ。吉岡 は今、裏で『道具屋』やってるんッス」
「……え、道具、屋……?」
戸惑う僕に、モルが簡単に説明してくれる。
「道具屋は、トバシやレンタルの携帯とか、架空名義の銀行口座とかを調達する人の事ッス」
トバシとは、使い捨ての事。
レンタルとは、足がつかずに一定期間使用できる事。
「……」
その道具屋が、どうしてここに……?
竜一と龍成の二人と、繫がりがあるって事……?
「……モル。吉岡は……ヤクザ、なの?」
モルに顔を向ければ、眉尻を少し下げた顔を見せる。
「……んー、どうなんッスかね。
この裏社会では、犯罪グループが自前で作った『道具屋』もいるんスけど、独立してやってる人もいるんスよ。
吉岡は、亡くなった太田組長の“実子”ってコネを使って、それなりに太いパイプ持ってるらしいッスから。
……恐らく、一匹狼だと思うッス」
「……」
組長の、子……!?
それって……つまり……
虎龍会でも、大友組でもない……中立の立場に属してる、って事……?
「姫が住んでるアパート名義も、確か……リュウさんが吉岡に依頼したものらしいッスよ」
「……え……」
『……あ、俺同じアパートの……隣の部屋に住んでる、吉岡っていいます』──スーパーで話し掛けられた時の事が、思い出される。
じゃあ……最初から……
僕がどんな人物か──解ってて……近付いた、の……?
ともだちにシェアしよう!