128 / 555

第128話

……どうして、吉岡が…… ここに……? ガールズバーで、竜一と親しげに話していた姿を思い出す。 「……バカが」 龍成が軽く舌打ちし、眉間に皺を寄せ小声で吐き捨てる。 腰を上げ、肩で風を切りながら吉岡の方へと向かって行くのを見送った。 「……姫」 モルが立ち上がって僕の傍に駆け寄った。 「何も、されなかった……ッスか……?」 「……うん。大丈夫」 心配そうに僕の顔を覗き込むモルに、緩く口角を持ち上げ軽く笑みを返す。 「それより……」 言いながら、入り口付近に立つ二人に視線を移す。 「吉岡、って……」 「……ああ。吉岡(あいつ)は今、裏で『道具屋』やってるんッスよ」 「……え、道具、屋……?」 戸惑う僕に、モルが簡単に説明してくれる。 「道具屋は、トバシやレンタルの携帯とか、架空名義の銀行口座とかを調達する人の事ッス」 トバシとは、使い捨ての事。 レンタルとは、足がつかずに一定期間使用できる事。 「……」 その道具屋が、どうしてここに……? 竜一とも龍成とも、繫がりがあるって事……? 「……モル。……吉岡は、ヤクザ……なの?」 モルに顔を向ければ、眉尻を少し下げ考える素振りを見せる。 「……んー、どうなんッスかね。 この裏社会には、犯罪グループが自前で作った『道具屋』もいるんスけど、独立してやってる人もいるんスよ。 吉岡は、亡くなった『太田組組長の子』っていうコネ使って、それなりに太いパイプ持ってるらしいッスから。 ……恐らく一匹狼だと思うッス」 組長の、子……!? 虎龍会でも、大友組でもない…… 中立の立場で仕事してる、って事……? 「姫が住んでるアパート名義も、確かリュウさんが吉岡に依頼したみたいッスよ」 「……え……」 ″ ……あ、俺同じアパートの……隣の部屋に住んでる、吉岡っていいます ″ スーパーで話し掛けられた時の事を思い出す。 じゃあ……最初から、 僕がどんな人物か ……解ってて……近付いた、の……?

ともだちにシェアしよう!