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第131話

「……リュウさんと言えば……」 モルがポケットから携帯を取り出す。入り口付近にいる二人に背を向け、気付かれないよう警戒しながら。 「今度こそ、出てくれるといいんスが……」 携帯から聞こえる、微かなコール音。 しかし、出る気配は感じられない。 モルの肩越しから、二人を確認する。と、視線に気付いたのか。背中を向ける龍成の動きが止まり、ゆっくりと此方に振り向く。 「………モル」 僕の声に、携帯を操作し直していたモルが顔を上げる。 しかし──龍成の瞳には、携帯を弄る様子がしっかりと映り込んでしまったらしい。 「──やってくれるじゃあねぇか……!」 大股で此方に近付く。 鋭く尖ったその殺気に怯みそうになるのを堪え、龍成をじっと見据える。 「いま、アゲハに連絡とろうとしてた所、だから……」 咄嗟に嘘をつく。 だけど、この人が僕の弱小なハッタリに動じる筈がない。 掌がじん、と痺れ……心臓がバクバクと忙しく動く。 「そいつを寄越せ」 案の定、龍成は僕の声を無視し、太い腕を伸ばしてモルから携帯を奪い取る。 履歴を確認しているのか……操作後、眉間に深い皺を刻む。 「………竜一だったら、アゲハの居場所……知ってるから……」 言い訳じみた事を口にする。自分でも、無理があると思いながら。 「……オイ、こいつを始末しろ」 入り口で待機していた金髪のスカジャン男に、龍成が顎で命を下す。 呼ばれた男はドスの利いた声で返事をし、足早に此方へと向かってきた。 「……待って……!」 「いいっス、姫。 ……俺の事なら、大丈夫ッスから」 庇おうとする僕に、モルが笑顔を見せる。 ……僕を、安心させるように。 「……」 今までモルは、幾度となく僕を助けてくれた。 危険を顧みず、竜一との橋渡しまでしてくれた。 ……そんなモルを、犠牲になんかさせたくない…… 「オラァッ、……こっち来いや!」 金髪スカジャンの男が、束ねたモルの髪の毛を引っ張る。そして無抵抗にも関わらず、髪を掴み上げながら容赦のない拳を頬に一発叩き込む。 「………待って!」 その光景に痛みの記憶が蘇り、胸が張り裂けそうになる。 これ以上、モルを……傷付けたくない。 「アゲハがホストをやってた時に、仲の良かった人がいて……その人になら、アゲハの居場所を聞ける。 その人は、今でもアゲハと頻繁に連絡を取り合ってて、僕に近況を教えてくれたから……」 僕の吐いた言葉に、龍成が訝しげる。 信用……していないんだろう。 震えてしまった声や浅い呼吸を何とか落ち着かせ、縋るように真っ直ぐ龍成を見上げる。 「……その話、本当だと思いますよ」 龍成の背後に隠れていた吉岡が、ゆっくりと姿を現す。 ガールズバーで会った時のように。柔和な笑みを浮かべながら。

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