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第129話

「……リュウさんと言えば……」 モルが上着のポケットから携帯を取り出す。 入り口付近にいる、二人に気付かれない様に警戒しながら。 「……出てくれると、いいんスけど……」 携帯から鳴り響く、小さなコール音。 しかし、出る気配は感じられない。 顔を上げて二人を見る。 視線を感じたのか、龍成の背中がぴくりと動き、ゆっくりと此方へ振り返った。 「……モル」 僕の声に、携帯を操作していたモルが顔を上げる。 しかし龍成の瞳には、しっかりと携帯が映ってしまったようだ。 「やってくれるじゃあねぇか……」 大股で此方へと近付く。 その殺気に怯みそうになりながらも 僕は龍成をじっと見据えた。 「……今、アゲハに連絡とろうとしてた所だから……」 咄嗟に嘘をつく。 だけど、この人が僕の弱小なハッタリに動じる筈がない…… 掌がじん、と痺れて……心臓がバクバクと忙しく動く。 「そいつを寄越せ」 案の定、龍成は僕の声を無視し、モルから携帯を奪い取る。 履歴を確認しているのか……操作後、眉間に深い皺を刻んだ。 「………竜一だったら、アゲハの居場所……知ってるから……」 言い訳めいた事を口にする。 自分でも、無理があると思いながら。 「……オイ、こいつを始末しろ」 入り口で待機していた金髪スカジャンの男に、龍成が顎で命を下す。 呼ばれた男はドスの利いた声で返事をし、足早に此方へと向かってきた。 「……待って……」 「姫、いいっス。 ……俺の事は、大丈夫ッスから」 庇おうとする僕に、モルが笑顔を見せる。 ……僕を、安心させる為に。 「……」 今まで僕は、何度となくモルに助けられた。 竜一との橋渡しもしてくれた。 ……そんなモルを、犠牲になんかさせたくない…… 金髪スカジャンの男が、束ねたモルの髪の毛を摑んで強く引っ張る。 怒鳴りながらベッドから引きずり下ろせば、無抵抗でいるモルが床に転がり落ちた。 「……待って。 ……アゲハがホストやってた時に、仲の良かった人がいて…… その人になら、アゲハの居場所聞ける。 その人は、今もアゲハと頻繁に連絡を取り合ってて、僕に近況も教えてくれたから……」 僕の言葉に、龍成が訝しげる。 信用……していないんだろう。 震えてしまった声や浅い呼吸を何とか落ち着かせて、縋るように真っ直ぐ龍成を見上げた。 「……その話、本当だと思いますよ」 龍成の背後から、吉岡がゆっくりと姿を現す。 ガールズバーで会った時のように 柔和な笑みを浮かべながら。

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