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第132話
「その情報、信用していいと思います」
「……」
吉岡の言葉に、龍成の眼の色が僅かに変わる。
「僕なら上手く聞き出せますよ。
……それより。こんな状態の彼を、このまま菊地さんに引き渡すつもりですか?」
柔和な笑顔を向けたまま、吉岡がサラリと痛い所を突く。
人懐っこい、忠犬みたいな眼差しで。
「……好きにしろ」
元組長の孫──だからなのか。
それとも。バックにもっと大きな後ろ盾でもあるのだろうか。
それらに臆して、おいそれと従うような人間ではない筈なのに。先程からアッサリと引き下がる龍成が、何ともらしくない。
「じゃ、そうさせて貰いますね」
軽い口調で返事をした吉岡は、柔やかな表情のまま僕を見下ろす。
「……」
どっちなんだろう。
この人は……敵なのか、味方なのか。
解らない。
僕の事を知ってる癖に。どうして初対面なんかの振りを……
澄んだ瞳の奥には、ハイジや龍成のような猟奇的な色や闇は見当たらない。
闇の世界に生きている人間とは思えない。
……解らない。
何が目的なのか。
全く見えない。
「彼を浴室まで連れてくの、手伝ってよ」
その視線が直ぐにモルへと移る。
金髪のスカジャン男は、訝しげな眼を吉岡に向けながら、モルから乱暴に手を離した。
全裸姿のまま、二人に抱えられてシャワールームへと向かう。
浴室のドアを開け、僕を壁まで誘導。フックからシャワーヘッドを取ったモルが、浴槽内にシャワー口を向け蛇口を捻る。
「……危ない所だったねぇ、類 くん」
吉岡が、細めた眼をモルに向ける。
……類くん……
モルの事、そんな風に呼ぶ仲なんだ……
「俺は全然。……それより姫、一人で大丈夫ッスか……?」
「えっ、何それ。姫の後処理、類くんがやるの……?」
お湯の温度を手で確かめながら心配そうに尋ねるモルを、軽い口調で吉岡が揶揄う。
「……!」
砕けた物言いに、二人の距離の近さは感じていたけど……
『姫』──どうして吉岡が、僕の事を……
幾ら何でも、図々しすぎる。
「……」
壁に顔を向けたまま視線を吉岡の方へと向ければ、屈託のない笑顔を浮かべているのが覗えた。
「リュウさんが知ったら、絶対只じゃ済まないと思うよ」
「……そりゃあ、そうッスよ」
「ははっ。ムキになっちゃって。類くんって、そういうトコ可愛いよね。……顔真っ赤だよ」
そう言って揶揄いながら、吉岡が背後からモルの喉に腕を掛ける。そのままズルズルと浴室から引っ張り出されそうになり、慌てたモルが出っぱなしのシャワーヘッドを慌てて僕に寄越す。
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