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第133話

バタンッと浴室のドアが閉まる。 その向こうからは、音や声が一切聞こえない。 「……」 ザ──ッ 壁に片手を付いたまま、シャワーを頭から被る。 熱くもなく温くもないお湯が、髪の先から滴り落ち、身体の表面に付いたお湯と合流して伝い流れる。 気が抜けたのか、足がガクガクと震える。 身体中がギシギシとし……内腿は痙攣するし、腰も外れたように痛い。 まだ腫れてるだろう顔に直接シャワーを当てれば、水圧がいい刺激になって気持ちいい。 シャワーヘッドを壁のフックに掛け、両手を壁に付いて身体を支える。 ザ──ッ こんな状態の僕を…… しかも、若葉ではない……単なる息子である僕を…… 相手は抱こうと思わないだろう。 寧ろ、逆鱗に触れるんじゃないか…… 龍成の世話になった人……という位だ。 普通の人じゃない事くらいは解る。 一体、どんな人だろう…… ぶるっ、と身体が震える。 痛みを知ってしまったこの身体は、恐怖で勝手に戦慄いてしまう。 ……でも、これは ハイジの為だ…… ザ──ッ 床に流れた水が、渦を巻きながら排水口に吸い込まれていく。 暗くて、(おぞ)ましく汚れた|溝の奥《地下》へ。 ウィークリーマンションを出る。 髪はまだ、しっとりと濡れたまま…… 日射しの下に身を曝すのは、久し振りだった。 想像以上の強い日射しに、一瞬目が眩む。 玄関を出る時、大麻を栽培していた部屋のドアが半分ほど開いていた。 電気が点き、棚にあった全てのプランターが運び出されていて……正に、もぬけの殻。 その近くにあった筈のノートパソコン。 それも、ない。 ……ハイジが、持っていったんだろうか…… それとも…… 「……さぁ、姫。どうぞ!」 車の後部座席のドアを開け、吉岡が僕に手を差し出してエスコートをする。 そのわざとらしさが何とも不快で、僕は無視して車に乗り込んだ。 反対側のドアから、モルが乗り込む。 座席に手を付き、モルの耳元に顔を寄せた。 「……モル。吉岡と親しいみたいだけど……」 少なくとも、モルに対しては味方……なのだろうか。 「えっ、何言ってんスか。……吉岡ッスよ?」 僕の言葉に、モルが驚いた顔を見せる。 モルの言葉の意味が解らないでいると、モルが続けて言う。 「ていうか姫、覚えてないんスか? 吉岡は、俺らハイジのチームにいたじゃないッスか」

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