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第133話 新たな巣窟【菊地編】

××× 繁華街を一望できる小高い丘。 山道をもう少し行けば、妖しげなピンクと紫の光を天に放つ、古びたラブホテル街がある。 夜景を見に来たカップルを、飢えた獣のように今か今かと待ち構えているようで……かえって不気味に映る。 随分前を走っていた車がウインカーを出し、夜景スポットである駐車場へと入る。 「お盛んなカップルだね」 助手席にいる吉岡が、軽い口調で大きな独り言を言う。 「それとも、……狩る方だったりして……」 僕の隣に座るモルの肩が、ピクリと小さく跳ねた。 「俺らもちょっと休憩しようよ」 「……はい」 吉岡の言葉に、運転手の男が返事をしウインカーを上げた。 広めの駐車場。 その一角には、幾つか建ち並ぶ廃れたプレハブ小屋。寂れた空間。 とうの昔に、この観光地は時代遅れの産物と化し、平日の昼間に訪れる者は皆無なのだろう。 錆の目立つちシャッター。所々にスプレーで描かれている、縄張り用のサイン。 白線内に車が収まれば、サイドブレーキの上がる音がした。 「……何で、ここなんスか?」 「何でって……ここで待ち合わせなんだよね」 シートベルトを外さず振り返った吉岡は、くぐもった声で質問したモルに軽く答える。 「……嫌だった?」 「いや、………」 柔和な顔を見せながら、サラッと続ける。対し、モルは窓の方に顔を向け、言葉を濁した。 「あー、解ったんだ。ここがどんな場所か」 「………」 相変わらず含んだような言い方。 ここがモルにとって忌まわしい場所なのは、何の事情も知らない僕にも伝わる。 「でも、姫は全然解ってないみたいだからさ。 ………優しく教えてあげなよ、類くん」 吉岡の台詞に弾かれたモルが、此方に顔を向ける。弱々しい視線が少しだけ絡み、直ぐに解かれた。 「……いいよ。無理に話さなくて……」 「え、いいの……? 類くんの事、もっと知りたいでしょ?………だってさ、セックスした仲じゃん」 ……え…… なに、こいつ…… ゾワッと全身が総毛立つ。 吉岡から視線を外し、目を開いたまま彷徨わせた。 ……なに、言ってんの…… 「……」 その視線がモルとぶつかる。 縋る思いでモルを見れば、直ぐに外された。 「言っちゃいなよ。楽になるから」 吉岡が何かを取り出して掲げ、それを小さく振ってみせる。 「証拠ならまだこの中に入ってるんだけどさぁ。……これ、要る?」 意地の悪い、吉岡の笑い声が車内に響く。

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