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第134話

証拠って、なに…… 僕とモルがそんな事、するわけ…… 「……」 押し黙ったままのモルに視線を送る。 しかし、そのモルはバツが悪そうな表情を浮かべた後、僕に視線を合わせ静かに口を開いた。 「……俺は、そんなつもりでした訳じゃないッスから……」 「……」 「そこは、信じて下さいッス。……姫」 全否定しないモルに驚く。 少なくとも、心当たりはあるようだ。 だけど、僕には身に覚えがない。 ……ありようがない。 「へぇ。じゃあこれ、姫に見られてもいいんだ。………見てみよっか、姫」 吉岡は、柔やかな表情ながら口元を歪め僕に尋ねる。 しかしそれは『悪意の塊』だ。 僕達の反応を見て『楽しんで』いる。 ……この状況を、弄んで…… それがこの男の『本性』……なのか。 「………悪趣味」 「そう?……この世界(アンダーグラウンド)じゃ当たり前だと思うけどね」 一度引っ込めた後、また直ぐ同じように掲げてみせる。 吉岡の手中にあったのは、携帯だった。画面が眩しい程に光り、既に動画が流されていた。 『……姫』 『ん、……ぅ、』 視覚と聴覚を、いっぺんにガツンとやられる。 『……っ、……』 『すいません、……』 見慣れた廊下。……竜一が用意してくれた、あのアパートの廊下だ。 画面が上下に揺れながら、声のあるリビングへと進んでいく。 少しだけ開かれるドア。 その隙間から中を覗き、手ブレが無くなった所で画面がズームアップされる。 『マジで……すいませんッス』 映し出されたのは………薄い布のようなものが床に敷かれ、その上に仰向けに横たわっている僕の姿。 ………全裸。 その直ぐ傍らに、手を付いて僕の顔を覗き込む……同じく全裸のモル。 どうして── 「……」 息が、出来ない。 どうしてここに、モルがいるのか。 どうして二人とも裸なのか………わからない。 僕の腰の辺りに跨ぎ、上から肌を重ね……… 「……っ、!」 見ていられなくて目線を外す。 『………姫、……っ、……すい、ません……、っ……』 モルの、少し震えるような……声。 ゾクッと体が震え、両腕をクロスし、自分で自分を抱く。 ……まさか……モルが…… どう思考を巡らせても、答えが解らない。否定の理由を探しても、映像が全てだと打ち消される。 『……っ、ん……』 いくら視覚を遮断しても、聴覚だけは遮断できない。 肩を竦め、更に強く自分を抱く。 失笑する吉岡。 もし、顔を背けたり耳を塞ぐ仕草を見せたら……今度こそ堪えきれずに、高笑いをするのだろうか。 「これ、何ていうプレイ?」 目を逸らした僕に、吉岡が楽しげな声色で聞く。 「………教えてよ、姫」 「止めろ!」 吉岡の声を遮ってモルが啖呵を切る。 その瞳は鋭く尖っていて。 「これ以上、姫を………」 「……類くんて、やっぱ面白いね」 モルの声を被せた後、吉岡が静かに笑う。 サッと携帯を引っ込めると、動画の続きを眺めながら吉岡が口を開く。 ……至極、悪い声で。 「これ。……また活用させて貰おうかな」

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