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第136話
証拠って、なに……
僕とモルが……そんな事、するわけ……
「……」
押し黙ったままのモルに、視線を送る。
しかし、当のモルはバツが悪そうな表情を浮かべながら僕に視線を合わせ、静かに口を開く。
「……俺は、そんなつもりでした訳じゃないッスから……」
「……」
「そこは、信じて下さいッス。……姫」
「……」
強く否定しないモルに、驚きを隠せない。
少なからず、心当たりはあるようだけど。僕には身に覚えがない。
……ありようがない。
「へぇ。じゃあこれ、姫に見られてもいいんだ。………見てみよっか、姫」
柔やかな表情ながら、口元を歪めた吉岡が揶揄うように尋ねる。
しかし、それは悪意の塊で。この状況を弄びながら、僕達の反応を見て楽しんでいるように見えた。
──これが、この男の本性だろうか。
「………悪趣味」
「そう?……この世界 じゃ、当たり前だと思うけどね」
一度引っ込めた後、また直ぐ同じ位置に掲げてみせる。
吉岡の手中にあったのは、携帯だった。その画面が眩しい程に光り、既に動画が流れていた。
『……姫』
『ん、……ぅ、』
視覚と聴覚を、いっぺんにガツンとやられる。
『……っ、……』
『すいません、……』
薄暗い廊下。……竜一が用意してくれた、あのアパートの廊下だ。
画面が上下に揺れながら、声のするリビングへと進んでいく。
少しだけ開かれるドア。
その隙間から中を覗き、手ブレが無くなった所で画面がズームアップされる。
『マジで……すいませんッス』
映し出されたのは──剥き出された肌。
薄い布のようなものが床に敷かれ、その上に仰向けに横たわる僕。
その直ぐ傍らに手を付き、僕の顔を覗き込む……全裸のモル。
「……!!」
どうして──
息が、出来ない。
どうしてここに、モルが……
どうして僕も裸なのか……全然わからない。
僕を抱きかかえるようにして、上から肌を重ね……
「……っ、」
見ていられなくて、目を逸らす。
『………姫、……っ、……すい、ません……、っ……』
モルの、少し震えるような……声。
ゾクッと身体が震え、両腕を交差するようにして自分の肩を抱く。
……まさか……モルが……
どう思考を巡らせても、答えが解らない。否定の理由を探しても、映像が全てだと打ち消されてしまう。
『……っ、ん……』
いくら視覚を遮断しても、聴覚だけは防げない。
肩を竦め、二の腕を擦りながらもっと強く自分を抱く。
「……これ、何ていうプレイ?」
失笑する吉岡。
もし、顔を背けたり耳を塞ぐ仕草を見せたら……今度こそ堪えきれずに、高笑いをするのだろうか。
目を逸らした僕に、吉岡が楽しげな声色で聞く。
「………ねぇ教えてよ、姫」
「止めろ!」
吉岡の声を遮ってモルが啖呵を切る。
その瞳は鋭く尖っていて。
「これ以上、姫を………」
「……類くんて、やっぱ面白いね」
モルの声を被せた後、吉岡が静かに笑う。
サッと携帯を引っ込めると、動画の続きを眺めながら吉岡が口を開く。
……至極、悪い声で。
「……コレ、また活用させて貰おうかな」
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