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第135話

その携帯が、けたたましく鳴った。 「……はい、吉岡」 吉岡が電話に出る。待ち合わせ相手、からだろうか。 僕は細い息を吐く。 「……あの、姫……」 見れば、モルの眉尻が下がっている。 申し訳なさそうな表情を見せられた僕は、どう反応すればいいか解らない。 「信じて下さい……」 「……」 ……モルを、信じたい。 あの映像は何かの間違いで、あの男が偽造したもの。 ……そう……思いたかった。 「俺、決して姫を、そういうつもりでやった訳じゃないッスから……」 「……」 モルは、他の奴らとは違う。 今まで僕をそういう目で見た事はなかったし、そういう素振りを見せた事もない。 ……だから安心していた。 全裸姿のまま、若葉から逃げ出した先にいたモルに飛び込んでいけたのも。 全裸でベッドに縛られたままの姿を見られ、慌てなかったのも。 モルだけは違うと、信じてたから…… 半信半疑のまま、モルに視線を向ければ 少しだけホッとしたモルが続けて口を開く。 「あん時の姫、あのままだったら……」 「アイツら着いたってさ!」 モルの声に被せ、吉岡が大きな声を出す。 見れば、モルの向こう側………この車の隣に、勢いよく黒のワゴン車が突っ込んでくる。 急ブレーキの音が止む間もなく、電動スライドドアがゆっくりと開いた。 既に大音量を撒き散らしてはいたが、更に激しさを増す。 「……類くんは、アッチ」 見るからに……いかにもといった、不良集団。 後部座席に座っていた、ガラの悪そうな男二人が車を降りる。 髪の色、服装は勿論……彼らの首元や剥き出しになった二の腕には、刺青が。 「『カップル狩り』って、……類くんなら解るよね。 彼らは『棲寝威苦(スネイク)』ってゆー半グレ集団の傘下にある、カップル狩りグループ。 その名の通り、カップルを襲ってカツアゲして、資金集めてんの」 男がモル側のドアを開けた。 瞬間、けたたましい音楽と共に響く低音が、容赦なく車内の空気を浸食する。 「……って事でさぁ、類くん。 彼らに混じって、ひと仕事してきてよ」 それに負けじと、口角を上げた吉岡が大声で指示を出した。

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