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第137話

突然、携帯が鳴り響く。 待ち合わせ相手、からだろうか。 操作をして耳に当てる吉岡から視線を外し、細い息を吐く。 「……あの、姫……」 隣を見れば、申し訳なさそうな表情を浮かべたモルが、二つのつぶらな瞳で真っ直ぐ僕を見つめていて。どう反応したらいいか……解らない。 「信じて下さい……」 「……」 ……モルを、信じたい。 あの映像は何かの間違い。あの男が偽造したもの。──そう、思いたい。 「俺、決して姫を、そういうつもりでした訳じゃないッスから……」 「……」 モルは、他の奴らとは違う。 今まで僕をそういう目で見た事はなかったし、そういう素振りを見せた事もなかった。 ……だから安心しきっていた。 寒空の下、一糸纏わぬ姿で飛び出し、背後から迫り来る若葉を振り切って、その先にいたモルの胸の中に飛び込んでいけたのも。 裸のまま、ベッドに縛られた姿を見られて、慌てなかったのも。 モルだけは違うと、信じてきたから…… 半信半疑のままモルに視線を向けていれば、少しだけホッとした様子でモルが口を開く。 「あん時の姫ッスが、あのままだったら───」 「アイツら着いたってさ!」 モルの声に被せ、吉岡が大きな声を上げる。 キキキキーッ タイヤの擦れる、不快な音。 見れば、モル側の真横に、勢いよくエンジンを吹かして突っ込んでくる黒っぽいワゴン。止む間もなく、カチャンと電動スライドドアがゆっくりと開かれる。 既に大音量を撒き散らしてはいたものの、ドアの隙間が開いた瞬間から、突き刺すような激しい音楽が辺りに響き渡る。 そこから下りてきたのは──ガラの悪そうな男二人。 見るからに、いかにもといった不良集団。 薄暗さも手伝って、ハッキリとは見えないけど。髪の色、服装は勿論。彼らの首元や剥き出しになった二の腕には──刺青、らしきものが。 「『カップル狩り』って、……類くんなら解るよね。 彼らはvaɪpər(ヴァイパー)っていう半グレ傘下の、カップル狩りグループ。その名の通り、カップルを襲ってカツアゲして、資金集めしてんの」 男がモル側のドアを開ける。 その瞬間、けたたましい音楽と共に体幹に響く低音が、容赦なく車内の空気を浸食する。 「……って事でさぁ、類くん。 彼らに混じって、ひと仕事してきてよ」 それに負けじと口角を持ち上げた吉岡が、大声で指示を出す。

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