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第146話
「……お前が、若葉の『甥』……か」
距離が縮まるにつれ、菊地の細部がはっきりと見えてくる。
遠くからでは解らなかった───顔全体が、少しだけ赤い。
……いや、顔だけじゃない。
首も。肩も。腕も。
………露出した肌という肌は全て、カサカサとしていてキメが荒く、ヤスリで擦れたかのように赤くなっている。
暑いのか。黒のタンクトップに迷彩柄のハーフパンツ。細身の体。
向こう側が見えないくらい濃いレンズのサングラス。顎髭。
背はそれ程高くはない。ハイジより小指の先分、ある程度だ。
サングラスの奥に潜む瞳が僕を捕らえながら、肘より上辺りをボリボリと掻く。
「俺も随分、舐められたもんだよなァ……」
口の片端を吊り上げ、白い歯を見せる。
僕の前に仁王立ちすれば掻いてた方の手を伸ばし、僕の顎下に差し込んでクイと持ち上げる。
「………」
「まぁ、いい。……服脱げ」
怯まずに相手をじっと見れば、早くしろと顎で急かされる。
……少し、我慢すればいい……
これも、ハイジの為だ……
そう自分に言い聞かせ、言われるがまま服に手を掛ける。
腕をクロスしシャツを捲り上げれば……現れたのは、ハイジに付けられた生々しいマーキングの数々。
「……おい、待て」
腕組みをし傍観していた菊地が、奇妙な声を上げた。
「お前、ここに来る前に誰かとヤッてきたのか?」
「………」
答える代わりにじっと相手を見れば、菊地がチッと舌打ちする。
「クソ、舐めやがって……!」
あからさまな嫌悪感。
こちら側からは見えない目が、吊り上がたのが解った。
首輪を掴まれる。
引っ張られた後、乱暴に投げ倒される。
スプリングが効きすぎるベッドに、体が小さく跳ねた。
「この首輪。……お前、男のヘルス嬢か?!」
「………」
「だったら、それ相応の事をしてやるよ……」
男が膝をついてベッドに上がり、うつ伏せの状態の僕に跨ぐ。
「お前………俺を誰だと思ってやがんだ」
肩を掴まれ、乱暴にひっくり返される。
威嚇した声。含み笑い。
僕の顔の横に片手を付き、もう片方の手で僕の顔にかかった前髪を雑に搔き上げる。
その指先は異常に冷たく……老人のようにガサガサしていた。
「コンクリ詰め事件の、主犯だ」
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