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第147話
×××
「……変わってんな、お前」
ベットの端に座った菊地が、サイドテーブルに置かれた煙草を口に咥える。
「俺が怖くねぇのか?」
「……」
僕が反応せずにいると、菊地が少しだけ振り返り、フーッと煙を吐き出す。
「……気持ち悪く、ねぇのかよ……」
先程より、少し控え目の声色。
黒目だけを動かして菊地の背中を見れば、鱗のような薄茶色の瘡蓋が目立つ。
肩甲骨の下辺り……そこから脇腹にかけて、広い範囲がジュクジュクとしている。
その浸出液は、僕の腕や体幹にも付着している。
「そういうショーバイしてる女でも、俺の体を見た瞬間、肌に触れる瞬間ってのは、ほんの僅かでも嫌悪感や同情が──瞳の色、仕草、雰囲気なんかで感じ取れちまうってのによ……」
「……」
フーッと煙が吐かれ、同時に灰皿に煙草が揉み消される。
「……まぁいい。風呂行くぞ」
「……」
何も隠す事無く、菊地がさっさとバスルームへと向かう。
思い通りにされた体を持ち上げれば、鉛のように重くて……溜め息が漏れた。
菊地は、アトピー性皮膚炎だった。
治療を受けているのかは、解らない。
まだ夜は肌寒いというのに、何故真夏のような格好をしていたのか……その理由が解った気がする。
菊地の身体は、熱くなると痒みが増すらしい。
セックスの最中はしていなかったけど、終わった瞬間から取り憑かれたようにゴリゴリと、骨の髄まで痒いのか、身体中を掻き毟った。
左の乳首より下に幾つかある、直径二センチ前後の丸い湿疹。
その瘡蓋が剥がれ、黄色い膿のような浸出液がドロッと滴り落ちる。
それは手が届く範囲の脇腹や腰辺りにも及んでいた。
魚のような、生臭い臭い。
部屋に入った瞬間に感じた、独特な臭いと同じ。
その浸出液が、僕の身体に張り付いた状態で乾き、まるで液状のりのようにパリパリとした。
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