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第153話

それ、どういう意味……? 正義感溢れた、潔癖で力強い瞳を向けてるけど……自分は汚い詐欺の片棒を担いでるじゃないか。 「……以前、一度だけ、デリヘル嬢がここに来た事があるんだよ。 ああいうのは商売だから、割り切ってるというか、合意って事になるんだろうけど……… 菊地さん、その……『夜通し』だったんだ」 「……」 「流石に、限界だったんだろうね。『助けて』って。隣の建屋(あっち)にまで悲鳴にも似た叫び声が、何度も何度も聞こえたらしい。 後日、その店からクレームが入ったんだよ。でも菊地さん、棲寝威苦(スネイク)のリーダーと仲が良いみたいで。話つけて貰って…… ──それで、全て……解決」 カップスープにプラスチックスプーンを突き差し、くるくると掻き混ぜる。 「菊地さん……マジでやばい人だよ。 多分、人を……殺してる。 初めてセミナーを受けた時、『俺はコンクリ詰め事件の主犯だ』『ネンショー上がりだ』って俺らに怒鳴りつけて脅して。 その迫力に、集まった人達全員竦み上がっちゃって。 ……俺、凄い所に来ちゃったなって…… 菊地さんの事を調べようにも、身分証や外部と連絡がつくような私物を既に取り上げられてて。……逆に、こっちが身辺調査されてて、何かしらの弱みを握られてる。 ──管理、されてるんだ」 自分が飲む訳ではないのに、五十嵐がふぅーっ、とカップスープに息を吹き掛ける。 そうしてベッド端に腰を掛けると、横になったままの僕を見下ろした。 「今残ってる掛け子は、『菊地さんの従順な飼い犬』状態なんだよ。 前に、脱走に失敗した奴がいて。秩序を乱す悪い奴だと吹き込まれて……集団リンチ、させられた。 瀕死の状態になったそいつを、カップル狩りグループの奴らが何処かへ連れて行った。 ──多分……始末……されたんだと思う」 自分達で殺してしまった……… その心の重みを解消する為に、目の前に用意された……仕事を熟す。 ──初めてあの部屋に入った時の異様な雰囲気は……そういう事、だったんだ…… 「……でも……五十嵐は、随分平気そうだね」 嫌味、でもある。 だけど……関わったにしては、妙に普通でいられるのに違和感を感じた。 「………ああ。うん。 俺は、そのリンチに偶々関わってなかったから」 「……どうして?」 無遠慮に聞けば、一瞬だけ五十嵐の眉間に皺が寄った。 「………それは…… 俺に、帰る場所があるから……だ」 「……」 五十嵐の瞳が、泳ぐ。 それを見られまいと僕から直ぐに顔を背ける。眩しい程の朝日が射し込む窓。そこに、視線を落ち着かせたように見えた。 「……けど、自分の部屋に逃げ込んだ所で、全てから解放される訳じゃないだろ。 またここに戻って来て、犯罪の片棒を担がなきゃ………俺や、俺の大切な人の人生が、滅茶苦茶にされてしまう、から……」 語尾が、僅かに震える。 丸めた背中が、小さく震えている。 ……もしかして……泣いて……る……? 「……」 手を伸ばしかけて、止める。 僕から顔を逸らした時点で、触れて欲しくはないんだろうから。

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