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第157話
ギュッ、と胸の奥が苦しい程に締め付けられ、不安が津波のように押し寄せ……全てを飲み込んでいく。
ほぼ確定であろうその結論を……点と点を結んでしまった線を、バラバラにして無かったものにしようと抗う。
一度受け入れてしまったら、本当にそうなってしまいそうで。
もうこれ以上、何も考えたくない。
なのに──悲観的な考えばかりが、頭の中を支配し巣食っていく……
ぐらぐらと揺れる脳内。
グシャッ、と脳みそを握りつぶされたような、酷く鈍い感覚と痛み。
鉛のように重くて冷たい身体が、スプリングの効いたベッドに……深く深く、沈み込んでいく。
──ただ離れているだけなら、辛くなんてなかった。
竜一が用意してくれたアパートで一人、彼の帰りを待つ生活は……怖いくらいに平和で。幸せで……
竜一の心は変わらず僕の傍にあって、愛されていると感じられていた。
だから……いつか異変に気付いて、僕を捜し出してくれるものだとばかり、思ってた……
ケットをキュッと摑み、身体を小さく丸める。
乱暴にされた所が、痛い。
でも、それ以上に───心が、痛い……
苦しい……
「……」
目尻から、熱いものが溢れ落ちる。
無意識に触れれば、指先が濡れた。
涙だとわかった瞬間、堰を切ったように一気に溢れ出てきて……止まらない。
──竜一……
ケットを更に巻き込み、背中を小さく丸める。絶望に押し潰されそうな胸。
上擦った息を、漏れそうになる声と一緒に押し殺し、止めどなく流れる涙を何度も両手で拭う。
──会いたい……
彼を感じた温もりを、必死で追い掛ける。
声。匂い。表情。仕草──
身体や心に刻まれたそれらが、上書きするように愛された、ハイジの記憶に阻まれ……
手中から、すり抜けていく……
「………りゅう、いち……」
手のひらや甲で拭った両手を、目の先で広げる。
………汚い……
僕の身体は、汚れた溝川の底に沈んでしまった──
もう、誰の目にも触れる事はない……
ましてや竜一に、愛でられたり掬い上げられたりする事なんて………もう二度と………
「………っ、」
──竜一……
閉じた瞼の裏に、一際目立つオーラを放った竜一の姿がぼんやりと浮かぶ。
切れ長で形の良い瞳は、僕を映す事など、ないのかも……しれない……
もう、二度と……
「………りゅう……いち……」
ギュッと締まった喉から、声を絞り出す。
苦しい……
……もう、感情なんていらない……
切り離して、捨ててしまいたい……
この先辛いだけならいっそ
僕ごと消えて、無くなっちゃえばいいのに……
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